相続財産管理人・相続財産清算人の違いと不動産実務での活用

相続財産管理人と相続財産清算人の違いを不動産実務で正しく理解する

「相続財産管理人と相続財産清算人は同じ制度の新旧名称だと思っていたら、申立て費用として約100万円を超える予納金を準備して無駄になることがあります。」

📋 この記事の3つのポイント
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制度の根本的な違い

「相続財産管理人」と「相続財産清算人」は2023年民法改正で明確に分離された別制度。目的・申立権者・予納金額がそれぞれ異なります。

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不動産取引への直接的な影響

相続人不存在の不動産売買や相続放棄物件の処理において、どちらの制度を使うかで手続きにかかる期間が数ヶ月単位で変わります。

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実務で役立つ使い分けポイント

申立て目的が「財産の保全」か「債権者への清算」かで制度を選ぶのが基本。間違えると手続き全体をやり直す羽目になります。

相続財産管理人と相続財産清算人の制度上の違いとは

 

まず大前提として整理しておきましょう。「相続財産管理人」と「相続財産清算人」は、2023年(令和5年)4月1日施行の改正民法によって明確に区別された別々の制度です。

改正前は「相続財産管理人」という一つの名称がすべての場面で使われていました。改正後は目的に応じて二つに分化されたのです。つまり別物と理解するのが基本です。

相続財産管理人(民法第897条の2)は、相続人がいるかどうかまだ不明な段階、または相続放棄によって相続人がいなくなる可能性がある段階で、財産を「保全・管理」するために選任されます。誰かが相続を受ける可能性がまだ残っている状態での”一時的な番人”です。

一方、相続財産清算人(民法第952条)は、相続人の不存在が確定した後に、債権者や受遺者に対して財産を「清算・換価・分配」するために選任されます。財産を整理して終わらせる役割です。

項目 相続財産管理人 相続財産清算人
根拠条文 民法第897条の2 民法第952条
選任時期 相続人の存否が不明な段階 相続人不存在が確定後
主な役割 財産の保全・管理 財産の清算・換価・分配
申立権者 相続人・利害関係人・検察官など 利害関係人・検察官
手続きの目的 財産を守ること 財産を整理して終わらせること

不動産業者が実務で混乱しやすいのは、改正前に「相続財産管理人=清算まで全部やる人」というイメージで覚えてしまったケースです。改正後はその役割が二分されたため、どちらを申し立てるかを間違えると手続き全体が無効になりかねません。これは大きなリスクです。

相続財産清算人の申立てに必要な予納金と費用の実態

不動産業者が最も驚く点の一つが「予納金」の問題です。

相続財産清算人を選任するためには、家庭裁判所への申立てに際して予納金を納める必要があります。この予納金は、清算人の報酬や手続き費用に充てられるものです。金額は裁判所によって異なりますが、一般的に50万円〜100万円以上が求められるケースが多く、東京家庭裁判所では物件の状況によって100万円を超えることもあります。

予納金が必要なのです。この点を知らずに手続きを開始すると、資金準備だけで数週間のロスが生じます。

相続財産管理人(保全目的)についても予納金は必要ですが、清算人に比べると求められる金額が低い傾向にあります。ただし、管理対象の財産が不動産の場合は固定資産税等の維持費がかかるため、管理期間が長引くほどトータルコストが増加します。

不動産業者が空き家や相続放棄物件の買取・仲介を検討する場面では、この予納金コストを誰が負担するかが交渉の鍵になります。買主側・売主側・申立人(債権者など)の三者でコスト分担を事前に確認することが、取引をスムーズに進める上で不可欠です。

予納金の目安をあらかじめ把握しておけば、顧客への説明が格段に早くなります。これは実務上の大きなアドバンテージになります。

参考:相続財産清算人の申立てに関する費用・手続きの概要(裁判所公式)

裁判所|相続財産管理人選任の申立て

相続財産管理人・相続財産清算人が不動産売買に与える影響

相続人が不存在、または全員が相続放棄した不動産は、名義人が「相続財産法人」となります。この状態の不動産は通常の売買手続きでは動かすことができません。

相続財産法人の不動産を動かすには、相続財産清算人が選任され、清算人が家庭裁判所の許可を得た上で売却手続きを進めるという流れになります。この流れが原則です。

具体的なプロセスは以下のとおりです。

  1. 相続人全員が相続放棄 or 相続人不存在が確定
  2. 利害関係人(債権者・隣接地主など)または検察官が家庭裁判所に相続財産清算人選任を申立て
  3. 家庭裁判所が相続財産清算人を選任(通常は弁護士が選任される)
  4. 清算人が2ヶ月以上の官報公告を実施(債権者・受遺者の申出期間)
  5. 清算人が不動産を売却し、債権者への弁済・残余財産の国庫帰属を行う

この全プロセスには、早くても6ヶ月〜1年以上かかることが一般的です。長い道のりです。

不動産業者として現場で注意すべきは、ステップ4の官報公告期間中は売買契約の締結ができないという点です。売却自体は進めることができますが、公告期間中に別の債権者が現れた場合に配当が変わる可能性があるため、実務上は公告終了後に契約締結するのが安全とされています。

また、相続財産清算人が売却する不動産は「瑕疵担保責任契約不適合責任)を負わない」特約が付くのが通例です。買主側への説明を丁寧に行わないとクレームの原因になります。これが実務上の最大の落とし穴の一つです。

2023年民法改正で変わった相続財産管理制度の改正ポイント

2023年4月施行の改正民法は、相続財産管理制度を大きく再編しました。不動産業者として最低限押さえておくべき改正ポイントを整理します。

① 「相続財産管理人」と「相続財産清算人」の機能分化

改正前は一つの「相続財産管理人」制度が保全から清算まで担っていました。改正後は保全目的の「管理人」と清算目的の「清算人」に機能が分かれ、それぞれ異なる条文が適用されます。

② 相続人が存在する可能性がある段階での管理人選任が明文化

改正前は「相続人の不存在が確定した後」しか選任できないと解釈されるケースがありましたが、改正後は相続人の存否が不明な段階でも申立てが可能になりました。

③ 相続放棄した相続人の保存義務の明確化

相続放棄をした人も、放棄時点で相続財産を現に占有している場合は、相続財産清算人または次の順位の相続人が管理できるようになるまで、財産の保存義務を負うことが明文化されました(民法第940条改正)。不動産の場合は建物管理が問題になります。

④ 所有者不明土地・建物管理制度の新設との連動

同じく2023年施行の「所有者不明土地管理制度」「所有者不明建物管理制度」との使い分けが実務上重要になってきました。相続財産の清算が目的なのか、隣地利用や危険建物対策が目的なのかで適用する制度が変わります。

改正内容は複雑ですが、不動産業者が押さえるべきポイントはシンプルです。「誰が何のために申立てるのか」を整理すれば、適用する制度は自然と決まります。

参考:2023年民法改正・相続財産管理制度の概要(法務省)

法務省|民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)について

不動産業者が見落としがちな相続財産清算人への申立て戦略

ここからは、検索上位の記事ではほとんど触れられていない独自視点の実務情報です。

不動産業者が「隣の土地が相続放棄されて管理者がいない」「空き家所有者が死亡し相続人全員が放棄した」という場面に直面したとき、自分たちで相続財産清算人の申立てをする選択肢があることを知らないケースが非常に多いです。

民法第952条の申立権者は「利害関係人」であり、不動産業者自身が隣接地の所有者や取引関係者として「利害関係人」に該当するケースがあります。つまり、待っているだけでなく自ら動ける局面があります。

この戦略が有効な場面は以下のとおりです。

  • 隣接する物件の空き家が倒壊リスクになっており、解体・売却を進めたい
  • 相続放棄された土地が不動産プロジェクトの支障になっており、取得または整理したい
  • 管理されていない不動産の固定資産税滞納が周辺取引の障害になっている

申立てを自ら行う場合、費用として申立手数料800円+予納金(数十万〜100万円超)が必要です。ただし、申立てによって得られる不動産の取得・開発機会と比較すれば、投資対効果が見合うケースも十分あります。費用対効果の計算は必須です。

実際に申立てを検討する場合は、対象不動産の管轄家庭裁判所に事前照会をすることをおすすめします。裁判所ごとに予納金の目安や必要書類の細部が異なるため、弁護士への相談と組み合わせた上で進めるのが安全です。

申立人となった利害関係人が、清算後の残余財産から配分を受けることは原則としてありませんが、手続きを主導することで不動産の取得機会を先行確保できる点が最大のメリットです。これは他社との差別化になります。

参考:所有者不明土地・相続財産清算人制度の活用事例(国土交通省)

国土交通省|所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法

家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務