手付解除と仲介手数料の判例解説

手付解除の仲介手数料判例

手付解除した売主でも約定の6割しか請求できなかった

この記事の3つのポイント
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手付解除でも報酬請求は可能

売買契約が手付放棄で解除されても仲介業者は報酬を請求できるが、約定額全額ではなく商法512条に基づく相当額に減額される可能性がある

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重要判例による減額基準

福岡高裁那覇支部平成15年判決では約定額1658万円に対し1000万円のみ認容。手付金額や取引状況などの諸事情を総合考慮して算定

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媒介契約での事前合意が重要

手付解除時の報酬について媒介契約で特約を明記しておけば約定額請求も可能。最高裁判例も特段の事情がある場合は全額請求を認める

手付解除における仲介手数料の基本原則

 

不動産仲介業者が報酬を請求するには、媒介契約の締結、仲介行為の実施、売買契約の成立という3つの要件を満たす必要があります。売買契約が成立した時点で報酬請求権が発生するため、その後に手付解除があったとしても、原則として仲介業者は報酬を請求できる権利を持つことになります。

手付解除は民法557条に基づき、買主が手付を放棄するか売主が手付の倍額を償還することで、相手方が履行に着手するまで契約を解除できる制度です。これは当事者間の合意による契約解除の一種であり、仲介業者の責任ではありません。

仲介業者は契約成立までに物件調査、条件交渉、重要事項説明書の作成、契約書の作成など多くの業務を遂行しています。つまり報酬の対価となる業務はすでに完了しているわけです。

しかし問題は「全額請求できるか」という点にあります。判例では約定額全額の請求が認められないケースが多く存在します。最高裁昭和49年11月14日判決は、特段の事情がない限り、報酬は「売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合」について定められていると解釈しました。

つまり決済完了が前提ということですね。

この判例を受けて、手付解除の場合は約定額ではなく商法512条に基づく「相当額」の報酬のみ請求できるという考え方が実務では主流になっています。

手付解除時の仲介手数料減額を認めた重要判例

福岡高裁那覇支部平成15年12月25日判決は、手付解除時の仲介手数料について具体的な判断基準を示した重要な裁判例です。この事案では売買代金5億2455万円、手付金2000万円の土地取引で、買主が手付を放棄して契約を解除しました。

仲介業者は約定の報酬額(売買代金の3%+6万円で約1658万円)の全額を請求しましたが、裁判所は1000万円のみを相当額として認めました。

つまり約定額の6割程度です。

裁判所が重視したポイントは以下の通りです。まず手付金の額が売買代金に対して比較的少額(約3.8%)であったこと。手付金が多額であれば売主が得た利益も大きいため約定額全額の請求が認められる余地もあるとされました。

次に仲介業務の難易度や期間において特別な事情がなかったこと。通常より著しく困難だったとか、逆に容易だったという特殊事情は見当たりませんでした。

さらに手付解除は相手方が履行に着手する前に行使できる権利として契約時から予定されているものです。業者としても解除の可能性は認識していたはずであり、そのような場合の報酬について媒介契約で特約を定めておくことは容易だったと指摘されています。

厳しいところですね。

この判例は、手付解除時の報酬額を算定する際には、取引額、仲介の難易、期間、労力、約定報酬額、依頼者が現実に取得した利益などを総合的に考慮すべきだという基準を示しました。

手付解除と債務不履行解除での仲介手数料の違い

手付解除と債務不履行解除では、仲介手数料の扱いが異なります。この違いを理解しておくことは業者にとって重要です。

債務不履行解除の場合、契約当事者の一方に帰責事由があり、その責任で契約が解除されます。買主が代金を支払わない、売主が物件を引き渡さないといったケースです。この場合も仲介手数料の請求は可能ですが、やはり減額される可能性があります。

東京地裁の判例では、債務不履行解除の事案で、違約金として設定されていた金額(売買代金の20%)に対して3%を乗じた額を仲介手数料相当額として認めた例があります。

これは約定額よりも大幅に低い金額でした。

合意解除の場合は、当事者双方の合意により契約を白紙に戻すものです。この場合も報酬請求権は原則として影響を受けませんが、実務では約定額の8割程度の支払いとなるケースが多いようです。

ローン特約による解除は特殊です。買主が住宅ローンの審査に通らなかった場合に契約を白紙解除できる特約ですが、この場合は「取引の目的が達成されていない」として報酬請求が認められないのが一般的です。実務上、多くの媒介契約ではローン特約解除時は報酬を請求しない条項が入っています。

全日本不動産協会の法律相談事例

上記リンクでは手付放棄による解除時の報酬について詳しい解説があります。

参考事例として確認しておくと良いでしょう。

手付解除における履行の着手と報酬請求の関係

手付解除は「相手方が契約の履行に着手するまで」という期限付きの権利です。この「履行の着手」の判断が報酬請求にも影響を与える場合があります。

履行の着手とは、客観的に外部から認識できる形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指します。

単なる準備行為は含まれません。

売主側の履行の着手としては、抵当権を実際に抹消した場合、所有権移転登記請求権を保全するための仮登記をした場合などが該当します。買主側では、手付金とは別に内金や中間金を支払った場合が典型例です。

一方、司法書士への登記手続きの委任や固定資産税評価証明書の取得は、準備行為に過ぎず履行の着手には該当しないとされています。

意外ですね。

三井住友トラスト不動産の事例解説では、引渡し期日の3日前に司法書士に登記を委任し証明書を取得していても、その翌日に買主が手付解除した場合、売主の履行の着手は認められず解除が有効となる可能性が高いとされています。

履行の着手があった後は手付解除ができなくなるため、もし買主が無理に解除を主張すれば債務不履行解除の問題となります。この場合、仲介業者は約定額に近い報酬を請求できる可能性が高まります。ただし取引が完了していない以上、やはり減額のリスクは残ります。

手付解除リスクを回避する媒介契約の特約条項

判例から学ぶべき最も重要な教訓は、媒介契約締結時に手付解除時の報酬について明確に定めておくことです。最高裁判例も「特段の事情」がある場合は約定額全額の請求を認めています。

具体的には、媒介契約書に「手付解除により売買契約が解除された場合でも、約定の報酬全額を請求できる」という条項を明記しておく方法があります。福岡高裁那覇支部判決でも、このような特約があれば結論が変わった可能性があると示唆されています。

ただし依頼者保護の観点から、一方的に不利な条項は無効とされるリスクもあります。

バランスが必要です。

実務的には「手付解除の場合は約定額の80%」「手付金額と同額まで」といった段階的な設定が考えられます。

報酬の支払時期についても工夫が可能です。「契約時に50%、決済時に50%」という一般的な分割方式に加えて、「契約時に70%、決済時に30%」とすることで、手付解除時のリスクを軽減できます。

媒介契約には専任媒介、専属専任媒介、一般媒介の3種類がありますが、いずれの形態でも特約条項の設定は可能です。特に専任系の契約では、業者が広告費用などを先行投資するケースも多いため、手付解除時の報酬確保は経営上重要な課題となります。

三井住友トラスト不動産の手付解除と媒介報酬の解説

上記では弁護士による詳細な解説があり、媒介契約での取り決めの重要性について実務的なアドバイスが記載されています。

契約書作成の参考になるでしょう。

依頼者に対しては、手付解除のリスクとそれに伴う報酬の扱いについて、媒介契約締結時に丁寧に説明することが求められます。これにより後々のトラブルを防ぐことができます。

説明義務を果たしておけばOKです。

商法512条は商人が営業の範囲内で他人のために行為をした場合、報酬についての特約がなくても相当額を請求できると定めています。これが手付解除時の報酬請求の法的根拠となっていますが、「相当額」の判断は個別事情により大きく変動するため、事前の特約で明確化しておくことが最善策といえるでしょう。


宅建 権利関係_手付解除と違約金