土地改良法の改正・新旧対照表で不動産従事者が知るべき全ポイント
農地転用の同意書を取ってから売買しても、その後の工事計画変更で費用を請求されることがあります。
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土地改良法の改正と新旧対照表の基本:令和7年改正の背景
令和7年(2025年)4月1日、「土地改良法等の一部を改正する法律」が施行されました。第217回通常国会に令和7年2月14日に提出され、同年3月31日に成立・公布という異例のスピードで成立した法律です。
この改正は、農業水利施設の老朽化、農村人口の減少、気候変動による災害リスクの増大という3つの背景から生まれています。農林水産省のデータによると、全国の基幹的農業水利施設(受益面積100ha以上のもの)のうち、すでに全体の約54%(1万2,837か所)が標準耐用年数を超過している状況です。しかも毎年1,000件以上の突発事故が発生しており、特にパイプライン(管水路)の破裂・漏水事故が多発しています。
農林水産省が公表している新旧対照条文(PDF)では、法律の条文がどのように変わったかを一覧で確認できます。不動産従事者が特に注目すべきは、目的規定(第1条)の変更と、第87条の2、第88条関係の条文です。
目的規定について確認すると、改正前の第1条第1項は「農業の生産性の向上」「農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大」という言葉が中心でした。改正後は「農業生産の基盤の整備及び保全」「消費者の需要に即した農業生産の推進」という表現に変わっています。これは農業政策が「作る量を増やす」から「守って使い続ける」方向へシフトしたことを意味します。
土地改良区の現状も深刻です。全国の土地改良区数は昭和36年の1万3,163地区をピークに、合併等により令和5年度には4,095地区まで減少しました。さらに受益面積300ha未満の土地改良区が全体の約7割を占め、専任職員のいない土地改良区が約5割に達しています。こうした体制の弱体化が、今回の大幅な法改正を後押しした形です。
新旧対照表は、農林水産省の改正土地改良法説明会のページで公式に公開されています。PDF形式で入手できますので、まずは一次情報を確認するようにしましょう。
農林水産省公式の改正説明会資料(新旧対照条文ほか資料全7点)はこちら。
土地改良法の改正・新旧対照表の核心:第88条の変更と農地転用への影響
不動産従事者にとって最も実務に直結する改正が、第88条関係の変更です。ここが今回の新旧対照表の「核心部分」と言えます。
まず前提として整理しましょう。農地が土地改良区の受益地(恩恵を受けるエリア)にある場合、その農地を転用するには「地区除外」という手続きが必要です。地区除外とは、土地改良区の管轄から農地を正式に除外することで、土地改良区の意見書が農業委員会への転用申請に必須の添付書類となります。意見書がなければ申請が受理されないのが原則です。
改正前の問題点はどこにあったのでしょうか? 改正前の土地改良法では、農地転用後に宅地などへ転売され、その土地の所有者が農業者以外の第三者(非農業者)になってしまうと、国・都道府県が進める土地改良事業の計画変更の際に同意取得が困難になるケースが相次いでいました。農地転用後に転売された土地の元所有者はすでに関係ないと思いがちですが、実際には計画変更の同意徴集が滞り、事業全体が遅延するトラブルが現場で顕在化していたのです。
これが今回の改正でどう変わったのか。改正後の第88条では、「農地転用等された土地については、計画変更等の同意徴集の対象外とする」という規定が新設されました。つまり、農地転用が行われた土地は、その後の事業計画変更の際に同意を求める対象から外れることになります。
さらに画期的な変更があります。農地転用に伴う地区除外(非受益の申出)について、その面積の合計が受益面積全体の10%未満であれば、事業計画の変更手続き自体が不要になりました(省令で定める割合:受益面積の10%未満は施行地域の変更として取り扱わない)。これは不動産実務における地区除外申請の大幅な効率化につながります。
つまりこういうことですね。従来は農地を転用するたびに計画変更の手続きが発生していたところ、一定規模(受益面積の10%未満)の転用であれば手続きが簡略化されました。
ただし注意点があります。非受益の申出(地区除外の手続き)は義務ではありません。農地転用済みの土地であっても、正式な申出がなければ自動的に同意省略の対象にはならない点です。農地転用を行った後、必要な申出手続きを確実に行うよう、売主・買主の双方に周知することが不動産従事者の重要な役割になります。
北海道農政局が公表したQ&Aによると、農地転用の事前相談があった際には、事業担当者が非受益の申出を行うよう助言する仕組みが設けられています。不動産業者側としても、転用案件では土地改良区への事前相談を必ず組み込むことを標準フローにすることが求められます。
土地改良法の改正・新旧対照表:地区除外と決済金の実務上の注意点
農地転用に伴う地区除外では、必ず「決済金(清算金)」が発生します。これは罰則でも税金でもなく、組合員として将来負担すべきだった賦課金や借入金返済費用を、離脱にあたって一括で清算する費用です。決済金がある、ということが基本です。
決済金の金額は、法令で一律に定められているわけではなく、各土地改良区が独自の規程で単価を設定しています。計算式は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計算式 | 決済金単価(円/㎡)× 転用面積(㎡)= 決済金額 |
| 単価の例① | 愛知用水土地改良区:263円/㎡ |
| 単価の例② | 刈谷土地改良区:40〜60円/㎡(ほ場整備の有無で変動) |
| 計算例 | 400円/㎡ × 500㎡ = 200,000円(意見書交付手数料は別途) |
同じ地域でも改良区によって単価が数倍異なることがあります。意外ですね。土地改良区の単価は総代会で毎年決定されるため、前年と異なる可能性もある点も忘れてはいけません。
不動産従事者が特に注意すべきポイントが、決済金の負担者が法令上定まっていないという事実です。売主が支払うのか、買主が支払うのかは、当事者間の取り決めに委ねられています。
これが実務上のトラブルの温床になっています。「売主が払うものと思っていた」「買主の費用と聞いていた」というすれ違いが、特に農地転用を伴う売買では頻繁に発生します。金額が数十万円規模になる場合もあるため、売買契約書に「決済金の負担者はどちらか」を明記することは必須です。担当者のメモ書き程度では不十分で、必ず契約書の条項に落とし込む必要があります。
もう一点、スケジュール管理の問題があります。市町村の農業委員会には毎月の申請締切日が定められています。土地改良区の意見書取得には数日から2週間以上かかることがあり、この処理期間を見落とすと申請が1か月以上後ろ倒しになるリスクがあります。土地改良区への事前相談・申請、意見書の審査・交付、決済金の納付という工程を、農業委員会の締切日から逆算してスケジュールに組み込むことが大切です。
農地転用の地区除外・決済金手続きの詳細については、実務に精通した行政書士の解説記事も参考になります。
農地転用で土地改良区の意見書が必要な場合の手続きと決済金解説(専門家コラム)
土地改良法の改正・新旧対照表:施設更新と水土里ビジョンの新制度が農地評価に与える影響
今回の改正で新設された制度の中で、不動産取引の観点から見落としがちな重要事項があります。
「国・都道府県の発意による基幹施設の更新事業」と「連携管理保全計画(水土里ビジョン)」です。
まず施設更新の新制度について確認しましょう。改正前は、土地改良事業を実施するには原則として受益農業者の申請と3分の2以上の同意が必要でした。これは基本原則です。しかし改正後は、地域における農業生産活動の継続に重大な影響を及ぼすおそれがある基幹的農業水利施設(ダム・頭首工・用水機場など)について、農業者の申請なしに国または都道府県の発意で更新事業を実施できるようになりました(新設第87条の2第1項3号)。
これが不動産評価に何を意味するか、というと。土地改良区の受益地周辺の農地が、今後国の発意で施設更新の対象になる可能性があります。更新事業が行われると、その区域内の農地は受益を受ける側として費用負担(賦課金)が生じる場合があります。また、大規模なインフラ更新が行われることで、その周辺農地の将来的な農業利用継続性が確保されることになり、農地の担保価値評価や転用可否の判断にも影響する可能性があります。
次に「水土里ビジョン(連携管理保全計画)」です。令和7年度に新設されたこの制度は、土地改良区が市町村・農業委員会・農協・多面的機能支払活動組織などの地域関係者と連携し、末端水利施設を含む農業水利施設の将来的な保全管理体制を計画書として策定するものです(新設第57条の11〜第57条の15)。
水土里ビジョンを策定した場合には、国からの財政支援も手厚くなります。補助率は「土地改良施設維持管理適正化事業」で通常30%から40%へ引き上げられ、ビジョン策定自体にも1ビジョンあたり上限300万円の支援があります。
不動産取引の現場では、農地を取り扱う際に「この農地は土地改良区のどの水路に接しているか」「近い将来、水土里ビジョンによる大規模な管理体制変更が予定されているか」を事前に確認することが、顧客への丁寧な情報提供につながります。農業水利施設が更新・整備されるエリアの農地は、長期的な農業利用の継続性が高まるため、農業利用目的の購入者にとってはプラスに評価される場合もあります。
農林水産省の水土里ビジョンの最新情報はこちら。
土地改良法の改正・新旧対照表:新旧対照条文の入手方法と読み方のポイント
実務に使うには、まず新旧対照条文そのものを入手することが前提です。読み方のコツを知っておくと、必要な箇所を素早く確認できます。
新旧対照表は農林水産省の公式ページから入手できます。令和7年改正分については「改正土地改良法に係る説明会」ページに掲載された「資料2:新旧対照条文(R7改正)」(PDF:287KB)が最もコンパクトで参照しやすいです。法律の原文そのままの「新旧対照条文(534KB)」は条文全体をカバーするため内容が詳細ですが、不動産実務者が日常使いするには前者で十分です。
新旧対照条文の読み方について、基本の構造を確認しましょう。
| 列 | 内容 | 実務上の使い方 |
|---|---|---|
| 改正前(左列) | 旧法の条文 | 今まで自分が処理してきた根拠条文の確認 |
| 改正後(右列) | 新法の条文(傍線・下線あり) | 変更箇所の把握(下線部が追加・変更された部分) |
| 欄外備考 | 削除・移動・新設の注記 | 条文番号の変動チェック |
不動産従事者が新旧対照表で最初に確認すべき条文は次の5か所です。
- 📌 第1条(目的規定):「開発」→「保全」への方針転換の確認
- 📌 第57条の9・10(情報通信環境整備事業):土地改良区が整備した通信インフラの費用負担が組合員外にも及ぶ可能性
- 📌 第57条の11〜15(連携管理保全計画・水土里ビジョン):農地周辺の施設管理計画の把握
- 📌 第87条の2(国等の発意による基幹施設更新):農業者申請なしの事業実施制度の新設
- 📌 第88条(計画変更と同意徴集):農地転用後の地区除外手続きの簡略化
新旧対照表を読む際に意外と混乱しやすいポイントがあります。土地改良法の条文は「本法」「施行令(政令)」「施行規則(省令)」の3層構造になっており、実際の手続きの細部(割合の数値・様式など)は施行規則レベルで規定されています。令和7年3月31日付けで政令第139号として施行令も同時に改正されており、新日本法規の法令データサービスでも新旧対照表を確認できます。法律本文だけでなく施行令・施行規則の新旧対照表も合わせて確認することが原則です。
なお、農林水産省は令和7年4月から全国9ブロックで改正説明会を開催しており(関東・東海・北陸・沖縄・九州・近畿・東北・中国四国・北海道の順)、各ブロックの資料は上記公式ページで確認できます。これらは実務担当者向けの解説であり、条文の読み方に不慣れな方にも理解しやすい内容です。
農林水産省による土地改良法の全条文(e-Gov法令検索)。
土地改良法の改正・新旧対照表:不動産従事者が今すぐやるべき実務チェックリスト
今回の改正内容を踏まえて、不動産実務の現場でどのような対応が必要かをまとめます。改正は令和7年4月1日施行ずみですので、すでに適用されています。
まず農地(田・畑)の売買・転用案件について。土地改良区に属する農地かどうかを早期確認することが出発点です。所属する土地改良区が確認できたら、以下を順番に確認していきましょう。
- ✅ 管轄土地改良区の確認(市町村農政課・農業委員会で照会可能)
- ✅ 決済金単価の確認(土地改良区に直接問い合わせ)
- ✅ 意見書発行にかかる期間の確認(数日〜2週間以上を見込む)
- ✅ 売買契約書への決済金負担者の明記(売主・買主どちらが支払うか明確化)
- ✅ 農業委員会の申請締切から逆算したスケジュール設定
これは使えそうです。特に「決済金の負担者の明記」は、後々のトラブル防止に直結するため、テンプレート化しておくと業務効率が上がります。
次に、農地の転用後に売買するケースについてです。令和7年の改正では、農地転用等が行われた土地については計画変更時の同意徴集対象から外れることになりました。しかし、これが適用されるには「現実に転用が行われ、事業の利益を受けないことが明らかになったとき」に非受益の申出を行うことが条件です(第88条第1項)。
農地転用許可を取得しただけで、まだ実際の造成工事が完了していない段階では「現実の転用」とは認められません。許可≠転用完了が条件です。転用工事完了後に改めて申出が必要な点を、売主・買主双方に明確に説明することが求められます。
また、令和7年改正と並行して、農業経営基盤強化促進法の改正により令和7年4月から農地の直接貸借(利用権設定)が廃止され、農地バンクを通じた賃借に一本化されました。農地の賃貸借案件を扱う際はこちらの変更も踏まえた対応が必要になります。
土地改良法の改正に関する一次情報(農林水産省の農村振興局土地改良企画課)への問い合わせ窓口は、ダイヤルイン:03-6744-2187です。法改正の細部について確認が必要な場合は、直接問い合わせることも一つの選択肢です。
農地売買に関する法的規制の全体像は三井住友トラスト不動産の解説も参考になります。
農地売買に対する法的規制(三井住友トラスト不動産)

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