土地の形質変更ガイドラインを不動産従事者が正しく理解する方法

土地の形質変更ガイドラインを不動産従事者が正しく理解する方法

届出を出さずに着工した結果、30万円の罰金と工事中止命令が同時に届きます。

この記事の3つのポイント
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届出の基準は「3,000㎡」だけではない

有害物質使用施設がある土地は900㎡以上から届出義務が発生します。通常の3分の1以下の面積でも対象になるため、工場跡地などの取引では特別な注意が必要です。

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無届出には懲役・罰金の両方が課される

土壌汚染対策法第4条の届出を怠ると、3月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。違反記録は行政に残り、将来の許可申請にも影響します。

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盛土規制法(2023年施行)で規制が大幅強化

2023年5月に施行された盛土規制法により、土地の形質変更に関する規制が全国一律で包括的に強化されました。法人への罰金は最大3億円と、これまでより格段に厳しくなっています。


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土地の形質変更とは何か:ガイドラインで定義される対象行為

 

「土地の形質の変更」という言葉は、土壌汚染対策法や盛土規制法などの法律・ガイドラインで頻繁に登場しますが、その範囲を正確に把握している不動産従事者は意外と少ないものです。

形質変更とは、簡単に言えば「土地の形状を変更する行為全般」を指します。具体的には掘削・盛土・整地・鋤取りなどが該当し、建物の基礎撤去や杭打ち、地盤改良工事、抜根なども含まれます。一方で、「構造物や建物の解体のみ」「路盤材を残したままアスファルト部分だけを削り取る行為」などは、原地盤に触れないため形質変更に該当しません。

大切なのは、「土に触れる行為かどうか」がひとつの判断基準になるということです。

区分 該当する行為の例
掘削(形質変更に該当) 建築基礎・杭打ち・地盤改良・鋤取り・電柱設置・抜根
盛土(形質変更に該当) 砂利や縁石の敷設・道路舗装・土壌の仮置き
形質変更に該当しない行為 建物解体のみ・路盤材を残したアスファルト打ち替え・河川・港湾の浚渫

不動産取引では解体工事を伴うケースが多く、「解体だけなので届出不要」と思い込みやすいところですが、基礎の撤去に伴う掘削が発生した時点で形質変更に該当する可能性があります。形質変更かどうかの判断は、行為の名称ではなく実態で判断されます。これが原則です。

参考として、横浜市の公式FAQページが形質変更の定義をわかりやすく整理しています。

土地の形質の変更とはどのような行為ですか? – 横浜市

土地の形質変更ガイドラインにおける届出の面積基準と例外

土壌汚染対策法第4条に基づく届出が必要になる面積の基準は、不動産実務でも特に見落とされやすいポイントです。

原則として、掘削範囲と盛土範囲の合計面積が3,000㎡以上となる土地の形質変更をしようとする場合に、着手の30日前までに都道府県知事への届出が必要です。3,000㎡は東京ドームの約16分の1程度の面積で、マンション用地やある程度の規模の商業施設用地では十分に該当し得ます。

ただし、特に注意が必要なのが以下の場合です。

  • 現に有害物質使用特定施設(メッキ工場・化学工場など)が設置されている工場・事業場の敷地:900㎡以上から届出対象
  • 土壌汚染調査義務の一時免除(法第3条ただし書き)の確認を受けた土地:900㎡以上から届出対象(自治体によっては1,000㎡の場合もある)

900㎡というのはコンビニ用地が約300㎡前後であることを考えると、決して「大規模な開発だけの話」ではありません。小規模な工場跡地の売却案件でも届出義務が発生することがあるわけです。意外ですね。

また、以下の行為は一般の土地であれば届出が不要な例外に当たります。

  • 盛土のみを行う場合(切土を一部でも行う場合は対象)
  • 形質変更の深さが全部分で50cm未満で、区域外への土壌搬出がなく、飛散・流出を伴わない行為
  • 農業を営むために通常行われる行為(土壌搬出なし)
  • 林業用の作業路網の整備(土壌搬出なし)
  • 鉱山関係の土地での形質変更

深さ50cm未満が例外というのは重要な数字です。50cmとはちょうど一般的な木造住宅の布基礎の深さに近いため、浅い基礎の建物を解体する場合の撤去工事では例外に該当するケースもあります。ただし、「全部の部分で50cm未満」という条件を満たす必要があるので、一部でも深い掘削が入ると届出対象になる点には注意が必要です。

土地の形質の変更届出(土壌汚染対策法)の手続き – 佐賀県(面積要件や例外規定の整理に役立ちます)

形質変更時要届出区域と要措置区域:不動産取引での影響の違い

土壌汚染状況調査の結果、汚染が確認された土地は「要措置区域」または「形質変更時要届出区域」のどちらかに指定されます。この2つの区域の違いを理解しておくことは、不動産取引における重要事項説明のためにも不可欠です。

要措置区域は、土壌汚染の摂取経路があり、健康被害が生じるおそれがあると判断された土地です。原則として土地の形質変更は禁止され、汚染の除去等の措置が義務付けられます。売買の際にも大きな制約となり、買主のリスクが非常に高い区域です。

一方、形質変更時要届出区域は、汚染は確認されているものの、摂取経路がなく健康被害のおそれがない土地です。汚染の除去措置は不要ですが、形質変更を行う際は14日前までに都道府県知事への届出が必要になります(法第12条)。

つまり、要措置区域が「形質変更禁止」、形質変更時要届出区域が「形質変更する場合は届出必要」ということですね。

区分 健康リスク 形質変更 汚染措置 不動産への影響
要措置区域 あり 原則禁止 義務 売買に大きな制約
形質変更時要届出区域 なし(現状) 事前届出が必要 不要 土地活用は可能・価格減損のリスクあり

不動産取引における実務上の注意点として、形質変更時要届出区域の土地であっても、売買価格は同程度の条件の土地と比較して5〜30%程度安くなるケースがあります。そのため、売主・買主双方への丁寧な説明が欠かせません。

宅地建物取引業者は、取引物件が形質変更時要届出区域内にあるかどうかを調査し、該当する場合は土壌汚染対策法12条1項および3項に基づく制限がある旨を重要事項説明で告知する義務があります。これを怠ると宅建業法違反として、最大で2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(法人は1億円以下)の対象になります。重要事項説明は必須です。

形質変更時要届出区域における土地の形質の変更 – 日本環境安全事業(JEAS)(区域内での形質変更の具体的な手続きについて解説があります)

土地の形質変更ガイドラインで見落としやすい盛土規制法との関係

2023年5月26日、「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称:盛土規制法)が施行されました。この法律は、2021年7月に静岡県熱海市で発生した大規模土石流災害を契機として、旧・宅地造成等規制法を抜本改正したものです。不動産従事者にとって、土地の形質変更を考えるうえでこの法律は避けて通れません。

盛土規制法では、土地の用途(宅地・農地・森林等)にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制します。規制区域として「宅地造成等工事規制区域」と「特定盛土等規制区域」の2種類が設けられ、各都道府県・市区町村が指定を進めています。

規制区域内で土地の形質変更や土石の堆積を行う場合には、あらかじめ都道府県知事による許可または届出が必要となります。工事の許可審査では、技術的基準・工事主の資力と信用・工事施行者の能力・土地所有者の同意といった点が審査されます。

厳しいところですね。

罰則も大幅に厳格化されています。

  • 個人の場合:無許可行為・命令違反等で最大3年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金
  • 法人の場合:最大3億円以下の罰金

従来の宅地造成等規制法と比べると、適用範囲が格段に広がった点にも注意が必要です。旧法では主に「宅地造成」に限定されていた規制が、盛土規制法では農地や森林での盛土、土石の一時堆積にまで拡大されました。

また、指定区域の土地所有者には、過去に行われた盛土等も含めて、常時安全な状態に保全する努力義務が課されています。これは購入した土地の前所有者が行った盛土についても、現所有者が安全管理を求められるということです。中古物件や空き地の売買においては、過去の造成履歴の確認が従来以上に重要になっています。

盛土規制法による規制 – 三井住友トラスト不動産・不動産売買のトラブルアドバイス(弁護士による実務的な解説で、重要事項説明における留意点も記載されています)

土地の形質変更ガイドラインに基づく届出後の調査命令と実務対応

土壌汚染対策法第4条に基づく届出を提出したからといって、必ずしも土壌汚染調査(サンプリングを伴う調査)が求められるわけではありません。これは多くの実務者が誤解しているポイントのひとつです。

届出はあくまでも「一定規模以上の工事をします、着手の許可をください」という通知であり、すべての届出案件に土壌汚染の採取調査が義務付けられるわけではありません。届出を受け取った行政が内容を精査したうえで、法第4条第3項に基づく調査命令を発するかどうかを判断します。

調査命令が発せられる主な条件は以下の通りです。

  • 土壌が特定有害物質の基準に不適合であることが明らかな土地
  • 有害物質が埋められた・飛散した・地下に浸透していた履歴のある土地
  • 有害物質を製造・使用・処理する施設の工場・事業場の敷地だった土地
  • 有害物質を貯蔵・保管する施設の工場・事業場の敷地だった土地
  • 上記と同程度に土壌汚染のおそれがある土地

調査命令が出た場合は、指定調査機関に依頼して土壌汚染状況調査を実施し、120日以内に都道府県知事へ結果を報告しなければなりません。指定調査機関は環境省のウェブサイトで検索できます。

なお、調査命令が発せられなかったとしても、「その土地に汚染がない」と認定されたことにはなりません。あくまで「調査命令が出なかった」だけです。これが条件です。

過去にガソリンスタンドだった土地での道路拡幅工事のように、一見普通の工事でも、土地の利用履歴から有害物質の使用・製造・保管が考えられる場合には調査命令が出ることがあります。届出の提出書類に含まれる「土地利用履歴」の記載は、後の調査命令の有無を左右する重要な書類です。都道府県によっては提出が任意扱いとされる場合がありますが、実際には確認を求められるケースが多いので、事前に管轄の環境課へ確認を取ることを推奨します。

パンフレット「土壌汚染対策法のしくみ」– 環境省(制度全体の仕組みを図解でわかりやすく解説しており、社内研修資料などにも活用できます)

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