匿名加工情報・仮名加工情報の違いをわかりやすく整理する
仮名加工情報は「個人情報ではない」と思って社外に渡すと、法人に1億円以下の罰金が科されることがあります。
匿名加工情報・仮名加工情報の定義と法的位置づけ
個人情報保護法には「個人情報」「仮名加工情報」「匿名加工情報」「個人関連情報」という4つの区分があります。宅建業者はこの4つすべてに関わる可能性がある業種です。中でも「仮名加工情報」と「匿名加工情報」は、名前がよく似ているため現場で混同されやすい概念です。
まず定義から整理しておきましょう。
匿名加工情報(個人情報保護法第2条第6項)とは、特定の個人を識別できないよう個人情報を加工し、かつ元の個人情報を復元できないようにした情報です。2015年(平成27年)の個人情報保護法改正で導入されました。
仮名加工情報(個人情報保護法第2条第5項)とは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように個人情報を加工した情報です。こちらは2020年(令和2年)改正で新設され、2022年4月1日から施行されました。
つまり、仮名加工情報は「照合すれば個人が特定できる可能性が残っている」情報です。匿名加工情報は「どう照合しても元の個人に戻せない」情報です。これが最大の違いです。
不動産業界では、取引相手の氏名・住所・物件情報・成約情報など、多種多様な個人情報を日々取り扱います。2022年改正以降、これらのデータを適法に分析・活用するうえでこの2種類の違いの理解は不可欠となっています。
個人情報の種類と規制の強さを大まかに並べると次のようになります。
| 種別 | 個人特定 | 復元可否 | 法的位置 |
|---|---|---|---|
| 個人情報 | できる | − | 個人情報 |
| 仮名加工情報 | 照合すれば可 | 照合で復元可 | 原則・個人情報 |
| 匿名加工情報 | できない | 復元不可 | 非個人情報 |
つまり規制の厳しさは「個人情報 > 仮名加工情報 > 匿名加工情報」の順です。仮名加工情報は中間に位置するということですね。
参考:個人情報保護委員会「匿名加工情報と仮名加工情報の違いは何ですか」(公式FAQ)
匿名加工情報・仮名加工情報の加工方法の具体例
「加工方法」の違いも実務では重要です。どちらも「氏名を消す」だけでは不十分なケースがあります。
仮名加工情報を作る場合のルールは、個人情報保護法第41条第1項・施行規則第31条に定められています。最低限必要な加工は次の3点です。
- 氏名など特定の個人を識別できる記述の削除または符号への置き換え
- 個人識別符号(マイナンバー、免許証番号など)の全部削除
- クレジットカード番号・口座番号など財産的被害が生じるおそれのある記述の削除
宅建業の現場で考えると、たとえば「購入希望顧客リスト(氏名・希望エリア・年収・クレジット情報あり)」を仮名加工情報にする際は、氏名と顧客IDを乱数コードに置き換え、クレジットカード番号を削除する、という対応が必要になります。年収・希望エリア・問い合わせ履歴などの分析に使いたいデータはそのまま残せるため、顧客動向の分析には非常に有用です。
匿名加工情報を作る場合は、これに加えてさらに厳格な加工が求められます。個人情報保護委員会のガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)では、特異な値のぼかし処理(例:年齢「125歳」のような例外値は削除)、k-匿名性の確保(同じ属性の組み合わせが少なくともk件以上存在するよう加工する手法)なども念頭に置かれています。専門的な技術判断が必要になるため、社内だけで対応するのは難しいケースもあります。専門家の知見が必要ですね。
このように加工の手間という観点では「仮名加工情報の方が簡単に作れる」という特徴があります。ただし利用できる範囲は限られますので、次のセクションで詳しく確認していきましょう。
参考:個人情報保護委員会「ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」
匿名加工情報・仮名加工情報の利用ルールの違い(第三者提供・目的変更)
宅建業者が実務で最も引っかかりやすいのが「どこまで使えるか」「誰に渡せるか」という点です。この違いは非常に重要です。
| 比較項目 | 仮名加工情報 | 匿名加工情報 |
|---|---|---|
| 第三者提供 | ❌ 原則禁止 | ✅ 条件付きで可能 |
| 利用目的の変更 | ✅ 変更・追加が自由 | ◎ 制限なく可能 |
| 本人への開示請求対応 | ❌ 対象外(義務免除) | ❌ 対象外 |
| 漏えい報告義務 | ❌ 義務なし | ❌ 義務なし |
| 主な用途 | 社内分析・目的変更 | 外部提供・データ流通 |
仮名加工情報は「社内専用」のデータ活用手段です。法人に1億円以下の罰金が科される可能性のある個人情報保護法の措置命令違反につながるリスクがある以上、「氏名を消したから第三者に渡してもOK」という判断は危険です。これは違反になりません、とは断言できません。
一方、匿名加工情報は「外部流通」を想定した制度です。たとえば、不動産業者が保有する成約データを匿名加工したうえで市場調査会社に提供する、といった用途が想定されています。提供する際は「匿名加工情報である旨の明示」と「自社が加工した項目の公表」が義務付けられています。
また、仮名加工情報のメリットとして見落とされがちなのが「利用目的の変更が自由」という点です。たとえば以前から持っていた顧客データを「新築購入検討者向けセグメント分析」に使いたい場合、通常の個人情報では元々定めた利用目的の範囲内でしか使えず、変更には本人の同意が必要になります。しかし仮名加工情報に加工すれば、本人同意なしに新たな目的で使えます。これは使えそうです。
不動産業者が「過去の成約顧客データを今後の仕入れ計画分析に活用したい」と考えた場合、仮名加工情報への加工が非常に有効な手段になります。
参考:個人情報保護委員会FAQ「仮名加工情報を第三者に提供することはできますか」
匿名加工情報・仮名加工情報が「個人情報かどうか」の判断基準
ここは多くの人が誤解している部分です。意外ですね。
「仮名加工情報は加工しているから個人情報ではない」と考えがちですが、これは間違いです。正確には「作成した会社が元の個人情報も保有している場合、その仮名加工情報は原則として個人情報に該当する」というのが個人情報保護委員会の解釈です(個人情報保護法第2条第1項)。
たとえば不動産会社Aが顧客名簿を保有しながら、同じ顧客の仮名加工情報を作成した場合を考えます。仮名加工情報上の「顧客コード:K8323O」というデータは、元の名簿と照合すれば「田中太郎さん(東京都在住・45歳・年収800万円)」と特定できます。この場合、Aにとってこの仮名加工情報は個人情報に該当します。
ただし例外があります。元の個人情報(名簿)を完全に削除してしまえば、仮名加工情報は個人情報に該当しない可能性があります。しかし現実的には元データを消すケースはほとんどないため、「仮名加工情報は個人情報として扱う」が原則です。
匿名加工情報の場合は異なります。復元不可能な形まで加工されているため、作成した会社にとっても「非個人情報」として扱われます。これが匿名加工情報の最大の強みです。
この違いを押さえておけば大丈夫です。整理すると次のようになります。
- 仮名加工情報 → 作成元には「個人情報」として適用される義務がある(開示・利用停止請求は除外)
- 匿名加工情報 → 作成元にとっても「非個人情報」として扱われる
宅建業者が顧客情報を仮名加工情報として活用する場合でも、安全管理措置の義務は引き続き適用されます。漏えい報告義務・開示請求対応は免除されますが、適切な管理体制は欠かせません。
参考:法律事務所LEACTによる「仮名加工情報とは?定義・具体例・匿名加工情報との違いなどを分かりやすく解説」(弁護士執筆)

宅建業者が知っておきたい実務上の注意点と活用シーン(独自視点)
宅建業者は特に個人情報を多く扱う業種です。氏名・住所といった基本情報はもちろん、年収・家族構成・物件の取引価格・リフォーム履歴・ローン情報など、他業種にはない「住まいにまつわる深い個人情報」が集積します。
こうした情報を適切に加工・管理することで、どんな活用が考えられるでしょうか?
【仮名加工情報の活用シーン(宅建業)】
- 過去の成約顧客データから年齢・エリア・取引金額帯を分析し、次期の仕入れ計画に活かす
- 反響データ(問い合わせ履歴)を仮名加工して、どのポータルサイト経由の顧客が成約しやすいか社内で分析する
- 以前は「お客様へのご連絡」目的で収集した顧客データを、仮名加工情報に変換して「市場分析・サービス改善」目的に転用する
【匿名加工情報の活用シーン(宅建業)】
- 蓄積した成約情報を匿名加工して、業界調査機関や提携会社への市場レポート提供に利用する
- 地域別・物件タイプ別の成約傾向を統計データ化して、外部のデータ分析会社と協力してトレンドレポートを作成する
ここで特に注意すべき点があります。宅建業者は「仲介業務の過程で他社からも顧客情報を受け取る」ことがあります。共同仲介(業者間取引)のケースや、管理業者からの情報共有などがその典型です。こうした場合、第三者から受け取った情報を仮名加工情報として自社内で利用することは可能ですが、さらに別の第三者に流すことは禁止されています。仮名加工情報の連鎖的な提供はNGが原則です。
また、2022年の改正で追加された「個人関連情報」のルール(外部から取得したCookieデータ等の個人に紐づく情報)も宅建業には関係してきます。ポータルサイト経由で得たユーザー行動データを広告配信に活用する場合、同意取得が必要になるケースが増えています。仮名加工情報と個人関連情報を混同しないよう注意が必要です。
「個人情報を加工すれば何でも自由に使える」という認識は危険です。加工の種類によって使える範囲が法律で明確に定められています。この情報を得た後は、自社のプライバシーポリシーが現在の法律に対応しているかを確認することを強くおすすめします。個人情報保護委員会の公式サイトには事業者向けの点検ツールや事例集も公開されていますので参考にしてみてください。
参考:全日本不動産協会「個人情報保護法改正で不動産業が激変する?」
参考:国土交通省「不動産流通業における個人情報保護法の適用の考え方」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000058.html