特定防火設備・告示1369号の基準と構造要件
告示1369号を「ドア選びの参考程度」と思っているなら、違反建築物の取引に関与して損害賠償を請求されるリスクがあります。
特定防火設備と告示1369号の定義・位置づけ
「防火設備」と「特定防火設備」は似た名前ですが、性能要件がまったく異なります。この違いを混同したまま取引を進めると、重大な法令違反に関与するリスクがあります。
建築基準法第2条第9号の2ロでは、防火設備を「遮炎性能を有するもの」として定義しています。そのうえで、より高い遮炎性能を持つものが「特定防火設備」と位置づけられます。旧法では「甲種防火戸」と呼ばれていたものが、現行法で「特定防火設備」に名称変更されました。これは覚えておくべき基本です。
建設省告示第1369号(2000年5月24日制定、以下「告示1369号」)は、建築基準法施行令第112条第1項に基づき、特定防火設備が満たすべき構造と性能の詳細を定めたものです。つまり、法律の委任を受けた告示という形で、具体的な数値や材料の要件が規定されています。
「防火設備」と「特定防火設備」の主な違いは、遮炎性能の試験時間にあります。防火設備は20分間の加熱試験に耐えることが要件ですが、特定防火設備は1時間(60分)の加熱試験に耐えることが求められます。約3倍の性能差があるということですね。
この性能差は設置義務にも直接反映されています。建築基準法施行令第112条が定める防火区画の種類(面積区画・竪穴区画・異種用途区画など)に応じて、「特定防火設備」が必要か「防火設備」で足りるかが変わります。宅建事業者として物件の防火区画の適法性を確認する際、この区別は不可欠な知識です。
参考リンク(特定防火設備と防火設備の法的定義・施行令の根拠確認に有用)。
e-Gov法令検索:建築基準法施行令(第112条 防火区画)
告示1369号が定める特定防火設備の構造要件の詳細
告示1369号の構造要件を「なんとなく」で理解している人は多いです。しかし、現場で非適合品を見抜けなければ、適法性の調査義務を怠ったとして責任を問われる可能性があります。
告示1369号が定める特定防火設備(主として防火戸)の構造要件は、大きく分けると「骨組みの材質」「充填材の種類」「開口部の仕様」の3点に整理できます。まず骨組みについては、鉄材または鋼材を用いることが基本です。アルミ合金製は単体では告示1369号の直接的な対象外となる場合があり、個別の大臣認定取得品でなければ特定防火設備として扱えません。これは見落としやすい点です。
充填材については、ロックウールなどの不燃性かつ断熱性を持つ材料を用いることが規定されています。扉の芯材に使われている材質が告示要件を満たしているかどうかは、外見から判断できないため、認定証や試験成績書で確認することが原則です。
ガラスを用いる場合には、網入りガラス(ワイヤー入りガラス)または耐熱強化ガラス等、告示が指定する種別のものを使用しなければなりません。普通の透明ガラスや合わせガラスは原則不適合です。ガラス面積にも制限があり、扉の面積の1/2以下に抑えることが必要とされています(告示要件による)。つまりガラス面積の比率が条件です。
戸の厚さについても要件があります。鉄製の場合、扉の厚さは1.5mm以上の鉄板を用いるか、または厚さ0.8mm以上の鉄板に不燃材料の充填材を組み合わせる構造が求められます。はがきの厚さが約0.2mmですので、1.5mmというのはおよそ名刺7~8枚分を重ねた厚みに相当します。数字として覚えやすい基準ですね。
特定防火設備の認定制度と告示1369号の関係
「告示1369号に適合しているから大丈夫」と判断するのは、実は不完全な確認です。現場では認定番号の確認までセットで行うことが必要です。
特定防火設備には、告示1369号に定める構造のほかに、国土交通大臣の個別認定を受けたものも存在します。大臣認定品は、告示仕様とは異なる材料や構造を用いていても、試験によって遮炎性能を実証し認定を取得することで、特定防火設備として使用できます。認定番号はアルファベットと数字の組み合わせで表記され、「EA-○○○○」のような形式が一般的です(Eは遮炎性能、Aは1時間を意味します)。
宅建事業者として物件調査を行う際に重要なのは、設置されている防火戸が「告示適合品」か「大臣認定品」かを問わず、「特定防火設備として有効な仕様であるか」を確認することです。大臣認定品の場合は認定番号をメモし、国土交通省の指定性能評価機関や建材メーカーに問い合わせることで適合性を確認できます。
認定番号が読めない、銘板が剥がれている、製造年が古すぎて認定が失効している可能性がある、といった状況では、建築士や消防設備士などの専門家に現地確認を依頼することが現実的な対応策です。物件の適法性調査において「確認できなかった」という状態は、宅建業法第35条の重要事項説明義務の観点からも問題になり得ます。これはリスクとして無視できません。
参考リンク(大臣認定品の仕様・認定番号の調べ方に関する実務情報として有用)。
一般財団法人建材試験センター:防火設備の認定・評価制度について
特定防火設備が必要な設置場所と告示1369号の適用範囲
「防火区画があれば防火設備でいい」と思い込んでいる実務者は少なくありません。しかし、区画の種類を誤認すると、物件が違反建築物に該当し、取引後のクレームや損害賠償の原因になります。
建築基準法施行令第112条が定める防火区画には主に4種類あります。「面積区画」「高層区画」「竪穴区画」「異種用途区画」です。このうち特定防火設備が必要とされるのは、主に以下の場面です。
耐火建築物の主要構造部で区画する面積区画の開口部には、原則として特定防火設備(1時間遮炎性能)が求められます。11階以上の高層区画でも同様の要件があります。竪穴区画(階段室・エレベーター昇降路など)については、区画する構造の種別によって特定防火設備か防火設備かが分かれます。異種用途区画では、用途の組み合わせと建物規模によって要件が異なり、特定防火設備が必要なケースがあります。
設置が義務となる区画の性質を把握せずに、「防火設備が付いているから問題ない」と判断するのは危険です。20分耐火の「防火設備」が設置されているべき場所に60分耐火の「特定防火設備」が必要だったケースでは、建築確認申請時の指摘だけでなく、竣工後の完了検査や定期調査報告でも問題になります。
中古物件の売買仲介では、既存の防火設備が現行法に適合しているかどうか、既存不適格なのか違反なのかを区別することが重要です。既存不適格と違反では、買主への説明内容も変わります。該当箇所を発見した場合は、必ず建築士に判断を委ねることを基本方針としてください。これが原則です。
宅建実務で告示1369号を見落としやすい3つの場面と対策
法令知識があっても、現場の確認作業に落とし穴があります。実務上で特定防火設備の確認漏れが起きやすい3つの場面を具体的に押さえておきましょう。
場面①:リノベーション済み物件での開口部変更
リフォームや内装変更の際に、防火区画をまたぐ開口部が増設・変更されているケースがあります。この際、施工業者が防火設備の必要性を見落とし、一般的な建具に取り替えてしまうことがあります。図面上は防火戸のマークがあっても、現地では普通ドアに変わっているという事例も実際に報告されています。現地調査では図面との照合が必須です。
場面②:店舗・事務所併用物件の異種用途区画
1階が店舗・2階以上が住居という複合用途建物では、異種用途区画が発生する場合があります。この区画に設置すべき設備が「特定防火設備」なのか「防火設備」なのかは、建物の規模と用途の組み合わせによって変わります。不明な場合は「特定防火設備が設置されているか」を確認し、不足している場合の対処を建築士に確認するという手順が安全です。
場面③:マンション共用部での定期調査未実施
建築基準法第12条に基づく定期調査・報告制度では、特定防火設備を含む防火設備の作動状況が確認項目に含まれます。定期調査報告が未実施の物件や、報告書に「要是正」の指摘がある物件では、重要事項説明でその旨を明記することが求められます。報告書の確認を怠ると、買主から「説明がなかった」として紛争になるリスクがあります。これは痛いですね。
防火設備の定期検査報告書は、特定行政庁(市区町村の建築指導担当部署)に保管されており、所定の手続きを踏めば閲覧が可能です。物件調査の段階でこの報告書を取り寄せ、指摘事項がないかを確認する習慣をつけると、実務リスクを大幅に下げることができます。
参考リンク(建築基準法第12条に基づく定期調査・防火設備検査の制度概要確認に有用)。