善管注意義務どこまで負うか不動産業の責任範囲と判例

善管注意義務どこまで負うか

視覚的確認だけで調査義務は果たせません

この記事の3つのポイント
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善管注意義務の法的根拠

民法644条に基づく委任契約上の義務で、不動産業者は専門家として通常期待される注意を払う必要がある

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調査義務の実務的範囲

視覚的確認とヒアリングが基本だが、疑念がある場合は役所調査や専門家への確認が必要となる

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損害賠償のリスク

管理会社の善管注意義務違反では4193万円の賠償命令事例もあり、責任範囲の理解が不可欠

善管注意義務の法的根拠と不動産業における位置づけ

 

不動産業における善管注意義務とは、民法第644条で定められた「善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務」のことです。不動産業者は媒介契約や管理委託契約を結ぶ際、この義務を自動的に負うことになります。

善管注意義務の本質は、専門家としての立場から期待される注意レベルを満たすことにあります。つまり一般人よりも高い水準の注意が求められるということですね。不動産業者には宅地建物取引士という専門資格保有者が在籍しており、不動産取引に関する深い知識と経験を持つ存在として、社会から認識されています。

この義務の特徴は、結果責任ではなく行為責任である点です。例えば売買による所有権移転登記を依頼されて手続きを進めた場合、最終的に登記が完了しなくても、適切なプロセスを踏んでいれば義務違反にはなりません。逆に結果として登記が完了しても、手続き上で重大な不注意があれば義務違反を問われる可能性があります。

宅地建物取引業法との関係では、法第35条の重要事項説明義務や法第31条の信義誠実義務とも連動しています。これらの規定と善管注意義務は互いに補完し合い、不動産業者に対して包括的な責任を課す構造になっているのです。

義務を果たすには法令遵守が基本です。

不動産売買や賃貸管理において善管注意義務を怠ると、債務不履行責任として損害賠償を請求されるリスクが生じます。マンション管理会社の事例では総額4193万円という高額な賠償命令が出されたケースもあり、義務の重さを物語っています。

カオナビの善管注意義務解説記事では、各分野における善管注意義務の範囲や違反事例について詳しく説明されています

善管注意義務の調査範囲はどこまで及ぶか視覚的確認の限界

不動産仲介業者の調査義務は「視覚的に認識できる範囲」と「売主からヒアリングできる範囲」が基本となります。しかしこの原則には重要な例外と追加義務が存在するため、注意が必要です。

建物の躯体に関する調査では、柱・梁・床・壁など建物を支える構造部材について、外観や内観から容易に確認できる範囲での瑕疵把握が求められます。

視覚的に確認できるということですね。

ただし雨漏りの被害を疑わせるような天井のシミや壁の変色があった場合、単に見ただけでは不十分です。

物件の内観から雨漏りの被害を疑わせる事情がある場合、若干の注意を払って必要な調査をしていれば雨漏りを発見できたと認定されるケースでは、調査義務違反による賠償責任を負います。逆に物件の内観から雨漏りの被害を疑わせる事情がない場合は調査義務は生じません。このように疑念の有無が調査義務の分水嶺となります。

登記記録については、契約前に登記記録の有無と内容を調査し結果を購入検討者に説明する義務があります。登記簿の確認だけでなく、競売手続きの執行記録の確認も求めた裁判例や、登記内容に疑念がある場合はより詳しい調査をすべきと要求した裁判例も存在します。

疑義がある時は深掘りが必須です。

本人確認については犯罪収益移転防止法により、運転免許証などの証明書類での確認に加え、当事者が記載した書類内容から関係者の自宅や勤務先に赴いたり電話したりして不審な点がないか確認することが求められています。本人確認を怠ったことで業者の損害賠償責任を肯定した裁判例では、被用者と代表者個人の双方の責任が認定されました。

法令上の制限に関しては原則として宅地建物取引業法第35条で規定された事項以外は調査義務の対象外とされています。しかし裁判において不動産業者の調査範囲は個別事情により拡大解釈されることがあるため、予見可能性がある周辺環境リスクについては積極的に調査する姿勢が求められます。

屋内消火栓の不設置という消防法違反の事実があったケースでは、仲介業者には消防署に問い合わせる等の積極的な調査義務があったとは言えないと判断されました。一方で開発許可取得済みと記載した以上、その後の手続きの瑕疵についても調査説明すべき義務があるとした判例もあります。

状況により判断が分かれるポイントですね。

永田町法律税務事務所の解説では、仲介業者の善管注意義務について本人確認や処分権限の調査など具体的な確認事項が詳述されています

善管注意義務の説明義務範囲と重要事項の境界線

説明義務は調査義務と表裏一体の関係にあり、調査で判明した事実を適切に説明しなければ善管注意義務違反となります。宅地建物取引業法第35条の重要事項説明は法定義務ですが、善管注意義務に基づく説明義務はそれよりも広範囲に及ぶ可能性があります。

建蔽率規制違反について争われた裁判例では、建蔽率規制に違反している事実自体を説明しなくても、規制に違反する数値そのものを説明していれば説明義務違反に当たらないと判断されました。

数値提示で足りるケースですね。

このように説明の仕方にも柔軟性が認められています。

中古住宅が雨漏りすることを認識しながら契約前に説明しなかった場合は当然説明義務違反となります。ただし将来的に雨漏りするおそれがあるかどうかという点については業者に調査義務はありません。現在の状態と将来の予測では義務の範囲が異なります。

シロアリやコウモリなどの迷惑生物が棲みついていた事例では、業者が外観や内観、売主からのヒアリングで迷惑生物の存在を知り得たかが争点となりますが、否定されるケースが多いとされています。専門的な調査まで求められないということです。

不等沈下については建物が傾く重大な問題として顧客に説明すべき重要事項とされています。ただし裁判例では説明義務違反の肯定例と否定例があり、建物の傾きの程度や購入者への影響度合いなどが個別に判断されます。

ケースバイケースの判断が必要です。

建物設備の瑕疵については通常の注意義務を尽くせば認識できる程度の範囲で調査説明義務を負います。防火扉、浄化槽、飲用水供給用の加圧ポンプなどの設備不具合が争われた裁判例がありますが、専門業者による詳細点検までは求められていません。

隣人から迷惑行為を受ける可能性が高いこと、隣接地における建物の建設予定による日照状況の変化見通し、以前風俗営業に使用されていた部屋であること、売主の管理費滞納、購入を検討している賃貸マンションを暴力団が賃借していること、敷金の状況なども説明事項とされています。これらは心理的瑕疵や経済的リスクに関わります。

契約締結後であっても重要な事実を認識するに至った場合、買主に説明する義務が生じるとした裁判例もあります。説明義務の時的範囲は契約締結時点で終わらないのです。

説明義務は契約後も続きます。

不動産流通推進センターの研究報告書では、事業用不動産取引における裁判例から学ぶ注意点がまとめられています

善管注意義務違反による損害賠償額の実態と判例

善管注意義務違反が認定されると、不動産業者は債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。賠償額は個別の事案により大きく異なりますが、数百万円から数千万円規模の支払いを命じられるケースも少なくありません。

マンション管理会社の事例では、善管注意義務違反を認定し管理組合に対して総額4193万円の賠償金の支払いを命じた判決がありました。これは管理会社が管理業務を適切に遂行せず、管理組合に多額の損害を与えたケースです。

金額の大きさに驚きますね。

賃貸物件内での自殺による損害賠償請求では、約2年分の賃料相当額を認めた事例があります。自殺があってから1年間は賃料なし、その後2年間は50%の賃料しか得られないとして損害額を算定したものです。心理的瑕疵による逸失利益が賠償対象となりました。

地中埋設物の説明義務違反を理由とする裁判では、相手の請求金額を大幅に減額して合意できた事例があります。当初の請求額がそのまま認められるわけではなく、過失の程度や損害との因果関係が厳しく審査されます。

減額交渉の余地があるケースです。

原状回復費用に関する裁判では、賃借人の通常使用を超える使用部分について経過年数を考慮した範囲で13万735円(消費税別)を敷金から差し引くことを認めた判決があります。善管注意義務違反があっても経年劣化分は賠償対象から除外されるという考え方です。

賃貸管理会社が騒音問題を放置したケースでは、管理委託契約に基づく善管注意義務を怠ったとして債務不履行責任を問われました。管理会社は賃貸人との管理委託契約により善管注意義務を負っており、騒音トラブルへの対応が不十分だと判断されたのです。

対応の遅延や不作為がリスクです。

損害賠償の範囲については、取締役の義務違反と相当因果関係に立つ損害とされています。つまり善管注意義務違反と直接的な因果関係がある損害のみが賠償対象となり、間接的な損害や予測困難な損害は含まれません。

因果関係の立証が重要なポイントです。

不動産適正取引推進機構のRETIO判例検索システムでは、善管注意義務違反に関する多数の裁判例が検索できます

善管注意義務の管理委託契約における実務対応と免責の限界

賃貸管理会社が管理委託契約を締結した場合、委任契約または準委任契約として善管注意義務を負います。管理会社は建物の損傷や危険性、不具合を確認する義務があり、緊急トラブル(漏水・停電など)への対応も善管注意義務の範囲に含まれます。

管理委託契約書では善管注意義務について明記することが重要です。管理会社が善良な管理者として注意をもって業務を遂行する義務が契約書に記載されているか確認する必要があります。契約書に明記されていることで双方の認識が明確になります。

管理会社の責任範囲は管理委託契約の内容により異なりますが、基幹事務と呼ばれる管理費等の収納や出納、管理組合の会計の作成、管理規約や使用細則等の原案作成などは、専門性が高く重要な業務として扱われます。基幹事務の自己管理は役員の法的責任を伴います。

管理会社との間でトラブルが発生した場合、管理委託契約書の該当条項を具体的に指摘することが効果的です。例えば「入居者クレーム対応の遅延は管理委託契約書第○条に定める善管注意義務に反します。本書面到着後7日以内に再発防止策をご提示ください」といった形で書面により通知します。

書面での記録が重要ですね。

契約不適合責任の免責特約については原則として有効ですが、売主が物件の不具合を実際に知っていたにもかかわらず買主にその事実を伝えなかったり故意に隠したりした場合、免責特約は無効となります。善管注意義務を免除する特約も同様に、悪意や重過失がある場合は無効とされる可能性があります。

消費者契約法第8条では、売主や施工業者などが損害賠償責任をすべて免責とする特約については無効であると規定されています。宅地建物取引業法においても同様の趣旨の規定があり、宅建業者が売主となる場合で買主が一般消費者の場合は、引渡し後2年以内の責任免除特約は無効です。

法律による保護がある分野です。

仮に特約が有効で借主・買主がこれに違反したとしても、当該債務不履行が「軽微」である場合は契約を解除することはできません(民法541条)。特に借地借家契約では信頼関係破壊の法理が働くため、単純な特約違反だけでは解除が認められないケースが多くなっています。

分別管理により管理業者やその従業員が敷金等から利益を得ようとしたり、善管注意義務に反する管理(着服等)がしにくくなります。賃借人から預かった敷金や賃料の適切な管理は、管理会社の基本的な善管注意義務の一つです。

管理体制の整備が予防策となります。

マネーフォワードの契約基礎知識では、民法644条の善管注意義務について違反した場合の対応や判例が解説されています

コーポレートガバナンスの法務と実務――会社法・コード・善管注意義務・開示