未成年者契約の取り消し / 令和5年の宅建解答解説

未成年者契約の取り消し

令和5年度の宅建問題より

問8 未成年者Aが、法定代理人Bの同意を得ずに、Cから甲建物を買い受ける契約
(以下この問において「本件売買契約」という。)を締結した場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。なお、Aに処分を許された財産はなく、Aは、営業を許されてはいないものとする。

  1. AがBの同意を得ずに制限行為能力を理由として本件売買契約を取り消した場合、Bは、自己が本件売買契約の取消しに同意していないことを理由に、Aの当該取消しの意思表示を取り消すことができる。
  2. 本件売買契約締結時にAが未成年者であることにつきCが善意無過失であった場合、Bは、Aの制限行為能力を理由として、本件売買契約を取り消すことはできない。
  3. 本件売買契約につき、取消しがなされないままAが成年に達した場合、本件売買契約についてBが反対していたとしても、自らが取消権を有すると知ったAは、本件売買契約を追認することができ、追認後は本件売買契約を取り消すことはできなくなる。
  4. 本件売買契約につき、Bが追認しないまま、Aが成年に達する前にBの同意を得ずに甲建物をDに売却した場合、BがDへの売却について追認していないときでも、Aは制限行為能力を理由として、本件売買契約を取り消すことはできなくなる。
解答

正解は3です。

  1. 誤り。未成年者Aは、法定代理人Bの同意なく単独で本件売買契約を取り消すことができます。Bは、Aによる取消しの意思表示を取り消すことはできません。
  2. 誤り。相手方Cが善意無過失であっても、法定代理人Bは、未成年者Aの制限行為能力を理由として本件売買契約を取り消すことができます。
  3. 正しい。本件売買契約につき取消しがなされないままAが成年に達した場合、Aは本件売買契約を追認することができます。Bが反対していても、Aが追認すれば、その後Aは本件売買契約を取り消すことはできなくなります。
  4. 誤り。Aが成年に達する前に、Bの同意を得ずに甲建物をDに売却しても、BがDへの売却を追認していない限り、Aは制限行為能力を理由として本件売買契約を取り消すことができます。Dへの売却とは別に、CとのAの本件売買契約の効力が問題となるためです。

以上より、3が正しい記述となります。未成年者が成年に達すると、それ以前の未成年者の時の契約について本人が追認できるようになり、追認すれば取消権が消滅するというルールを理解しておくことが重要です。

制限行為能力者の取り消し

制限行為能力者の取り消しについて、以下のようにまとめられます。

制限行為能力者の行った法律行為の取消し

  • 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、一定の被補助人)が単独で行った法律行為は、取り消すことができる。
  • 取消権者は、制限行為能力者本人、その法定代理人、保佐人、補助人、承継人などである。
  • 制限行為能力者本人も単独で取り消すことができる。

制限行為能力者の取消しの効果

  • 取り消されると、その法律行為は初めから無効であったとみなされる。
  • 当事者間では原状回復義務が生じる。
  • 制限行為能力者の取消しは、善意の第三者に対しても対抗できる。

制限行為能力者の相手方の保護

  • 相手方には、一定期間内に追認するかどうかを催告する権利がある。
  • 催告の相手と期間内の確答がない場合の効果は以下の通り。
  • 未成年者・成年被後見人の法定代理人に催告 → 追認とみなす
  • 被保佐人・被補助人の本人に催告 → 取消しとみなす
  • 被保佐人・被補助人の保佐人・補助人に催告 → 追認とみなす
  • 制限行為能力者が詐術を用いた場合は、制限行為能力を理由に取り消せない。

以上のように、制限行為能力者制度により、制限行為能力者本人は手厚く保護される一方、相手方の保護のための規定も設けられているといえます。

未成年契約の取り消し

未成年者(18歳未満の者)が法定代理人(親権者など)の同意を得ずに行った契約は、未成年者本人や法定代理人が取り消すことができます(民法第5条)。これは、取引の知識や経験、判断能力が不足している未成年者を保護するための制度です。

未成年者契約取消しが認められる要件は以下の通りです。

  • 契約時に未成年者である(民法第4条)
  • 契約時に婚姻経験がない(民法第753条)
  • 法定代理人(親権者や未成年後見人)が同意していない(民法第5条)

取り消すと、契約時にさかのぼって最初から無効なものとされます。未成年者が支払った代金は返還請求でき、受け取った商品は現状のまま返品すればよく、使用料を支払う義務はありません。

ただし、以下のような場合は取り消しができません。

  • 法定代理人から処分を許された財産をその目的の範囲内で使う場合
  • 法定代理人から許可された営業に関する契約の場合
  • 未成年者が詐術を用いた場合(成年者だと偽るなど)
  • 成年に達した後に契約を追認した場合
  • 取消権が時効により消滅した場合(成年に達してから5年、契約から20年経過)

未成年者契約の取消しは、未成年者本人からでも法定代理人からでも通知できます。書面で作成し、コピーを取った上で内容証明郵便などで送付するのがよいでしょう。

現代では、訪問販売やネット通販などで未成年者の被害が多発しており、未成年者契約の取消権は消費者保護の重要な役割を果たしています。

関連)未成年者契約 – 岡山県消費生活センター – 岡山県ホームページ(消費生活センター)