犯罪収益移転防止法と特定事業者の義務

犯罪収益移転防止法と特定事業者の義務

犯罪収益移転防止法の概要
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法律の目的

犯罪による収益の移転防止を図り、国民生活の安全と経済活動の健全な発展を確保する

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特定事業者

金融機関、宅建業者など49業種が対象

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主な義務

取引時確認、記録の作成・保存、疑わしい取引の届出


犯罪収益移転防止法の特定事業者とは

犯罪収益移転防止法(以下、犯収法)における特定事業者とは、マネーロンダリングやテロ資金供与の防止のために、法律で定められた義務を負う事業者のことを指します。宅地建物取引業者(以下、宅建業者)も特定事業者の一つとして位置づけられています。
特定事業者には、金融機関をはじめとして、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宝石・貴金属等取扱事業者など、全49業種が含まれています。これらの事業者は、その業務の性質上、犯罪収益の移転に利用されるリスクが高いと考えられるため、法律によって特別な義務が課されているのです。
宅建業者が特定事業者として指定されている理由は、不動産取引が高額であり、資金の出所を隠蔽するための手段として利用される可能性があるためです。そのため、宅建業者には不動産取引の際に、取引相手の本人確認や取引記録の保存などの義務が課せられています。

犯罪収益移転防止法における宅建業者の義務

宅建業者が犯収法に基づいて負う主な義務は以下の3つです。
1. 取引時確認
2. 確認記録・取引記録の作成・保存
3. 疑わしい取引の届出
まず、取引時確認については、宅地または建物の売買契約の締結、またはその代理もしくは媒介を行う際に必要となります。確認すべき事項は、取引を行う相手が個人か法人かによって異なります。
個人の場合:

  • 本人特定事項(氏名、住居、生年月日)
  • 取引を行う目的
  • 職業

法人の場合:

  • 本人特定事項(名称、本店または主たる事務所の所在地)
  • 取引を行う目的
  • 事業内容
  • 実質的支配者の確認

次に、確認記録・取引記録の作成・保存については、取引時確認を行った場合、直ちに確認記録を作成し、取引が終了した日から7年間保存する必要があります。また、取引記録についても同様に7年間の保存が義務付けられています。
最後に、疑わしい取引の届出については、取引の相手方の態度や取引の態様などから、マネーロンダリングの疑いがあると判断した場合、速やかに行政庁に届け出なければなりません。
これらの義務を適切に履行することで、宅建業者は犯罪収益の移転防止に貢献し、健全な不動産取引の実現に寄与することができるのです。

犯罪収益移転防止法の取引時確認の具体的方法

取引時確認は、犯収法において最も重要な義務の一つです。宅建業者が行う取引時確認の具体的な方法について、詳しく見ていきましょう。
1. 個人の場合の確認方法
個人との取引の場合、以下の手順で確認を行います。

  • 本人特定事項の確認:運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどの公的証明書の提示を受け、記載内容を確認します。
  • 取引目的の確認:取引の目的(例:住居用、投資用など)を口頭で確認し、記録します。
  • 職業の確認:顧客の職業を口頭で確認し、記録します。

2. 法人の場合の確認方法
法人との取引の場合、以下の手順で確認を行います。

  • 本人特定事項の確認:登記事項証明書や印鑑登録証明書などの公的書類で、法人の名称と本店所在地を確認します。
  • 取引目的の確認:取引の目的(例:事業用、投資用など)を口頭で確認し、記録します。
  • 事業内容の確認:法人の事業内容を確認し、記録します。
  • 実質的支配者の確認:議決権の25%超を保有する者や、法人の事業経営を実質的に支配する者を確認します。

3. 取引担当者の確認
法人との取引の場合、実際に取引を行う担当者(代表者や代理人)についても、個人の場合と同様の本人確認が必要です。
4. ハイリスク取引の場合の確認方法
通常の取引時確認に加えて、より厳格な確認が必要となるケースがあります。例えば、なりすましの疑いがある取引や、特定の国・地域に居住・所在する者との取引などが該当します。このような場合、通常の確認に加えて、取引担当者の権限の確認や、資産・収入の状況の確認などが必要となります。
取引時確認を適切に行うことで、不正な取引を防ぎ、安全な不動産取引の実現に貢献できます。宅建業者は、これらの確認方法を十分に理解し、実践することが求められます。

犯罪収益移転防止法における疑わしい取引の判断基準

疑わしい取引の届出は、犯収法において重要な義務の一つです。しかし、どのような取引が「疑わしい」と判断されるのか、その基準を理解することは容易ではありません。ここでは、宅建業者が疑わしい取引を判断する際の基準について解説します。
1. 取引の態様に関する判断基準

  • 通常の取引と比べて高額な取引
  • 短期間のうちに頻繁に行われる取引
  • 取引の規模、頻度等が顧客の収入、資産等に見合わない取引

2. 顧客の態度等に関する判断基準

  • 本人確認に協力的でない顧客との取引
  • 取引の真の目的や資金の出所に関する説明に不自然さがある取引
  • 架空名義や借名で行われたとの疑いが生じた取引

3. 取引の内容に関する判断基準

  • 売買価格が市場価格と著しく異なる取引
  • 不動産の購入後、短期間のうちに転売される取引
  • 資金の源泉が不明な海外送金による取引

4. その他の判断基準

  • 反社会的勢力やその関係者との取引
  • マネーロンダリングのリスクが高いとされる国・地域に関係する取引

これらの基準は、国土交通省が公表している「宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に詳しく記載されています。宅建業者は、このガイドラインを参考にしつつ、自社の取引実態に即した判断基準を設けることが求められます。
疑わしい取引の届出に関する詳細なガイドラインについては、以下のリンクを参照してください。
国土交通省:宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン
重要なのは、単一の要素だけでなく、取引の全体的な状況を総合的に判断することです。また、疑わしい取引の届出は、取引の成立・不成立にかかわらず行う必要があります。宅建業者は、これらの判断基準を十分に理解し、適切に対応することが求められます。

犯罪収益移転防止法の最新動向と宅建業者への影響

犯収法は、マネーロンダリングやテロ資金供与の手口の巧妙化に対応するため、定期的に改正が行われています。ここでは、最近の法改正の動向と、それが宅建業者にどのような影響を与えるかについて解説します。
1. 2021年の改正ポイント
2021年10月に施行された改正では、以下の点が変更されました。

  • 特定事業者の対象範囲の拡大:暗号資産交換業者が新たに追加されました。
  • 取引時確認の強化:ハイリスク取引の範囲が拡大され、より厳格な確認が必要となりました。
  • 疑わしい取引の判断基準の明確化:取引時の確認結果や取引の態様等を考慮することが明記されました。

2. 宅建業者への影響
これらの改正により、宅建業者にも以下のような影響が生じています。

  • より厳格な本人確認:特に高額な取引や、リスクの高い顧客との取引では、通常以上の注意が必要となりました。
  • 取引記録の精緻化:取引の背景や経緯についても、より詳細な記録が求められるようになりました。
  • 社内体制の整備:マネーロンダリング対策の責任者の設置や、従業員教育の強化が必要となりました。

3. 今後の動向
国際的なマネーロンダリング対策の強化に伴い、今後も法改正が行われる可能性があります。特に注目されているのは以下の点です。

  • 電子的な本人確認方法の拡充
  • 取引モニタリングの強化
  • 国際的な情報共有の促進

宅建業者は、これらの動向に注意を払い、常に最新の法令に対応できる体制を整えることが重要です。
犯収法の最新動向については、以下のリンクで確認することができます。
警察庁:犯罪収益移転防止対策室(JAFIC)
法改正の度に対応を変更するのは大変ですが、コンプライアンスを徹底することで、健全な不動産取引の実現に貢献できます。また、適切な対応は、自社の信頼性向上にもつながります。宅建業者の皆さんは、これらの動向を積極的に学び、実務に活かしていくことが求められています。