負担付死因贈与の判例と不動産実務の落とし穴

負担付死因贈与の判例と不動産実務で必ず押さえる法的ポイント

負担を履行しても、贈与者が生前に契約を撤回すれば、不動産はあなたの手に渡りません。

📋 この記事の3ポイント要約
⚖️

撤回できるケースと撤回できないケースがある

負担付死因贈与は原則として贈与者が撤回できますが、受贈者が負担をすでに履行した場合は最高裁判例により撤回が制限されます。

🏠

不動産実務では書面作成と登記が命綱

口頭の負担付死因贈与契約は紛争リスクが極めて高く、公正証書化と仮登記の組み合わせが実務上の最低ラインです。

💰

遺贈との違いを理解しないと課税で損する

負担付死因贈与は遺贈類似の扱いを受けますが、税務上・登記費用上で遺贈と異なる点があり、誤認すると数十万円単位の差が生じます。

負担付死因贈与の判例が示す「撤回制限」の基本ルール

負担付死因贈与とは、「私が死んだらこの不動産をあげる。ただし、生きている間は介護してくれ」といった形で、受贈者に一定の負担(条件)を課しながら贈与者の死亡を条件に財産を移転する契約です。遺言と似ていますが、双方の合意が必要な契約である点が根本的に異なります。

この違いが、撤回のルールに大きな影響を与えます。

民法554条は「死因贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」と定めています。遺言はいつでも撤回できるのが原則なので、死因贈与も撤回できるのか――という疑問が生まれます。ここで登場するのが、最高裁昭和57年(1982年)1月19日判決です。

この判決は、受贈者がすでに負担を履行した場合には、贈与者による一方的な撤回は許されないと判断しました。具体的には、受贈者が長年にわたって贈与者の療養看護を続けた事案で、その履行済み部分の存在が撤回制限の根拠とされました。これが基本です。

不動産実務の現場では、介護・同居・ローン返済の肩代わりなどが「負担」として設定されるケースが多くあります。負担の内容が曖昧だと、「履行したかどうか」自体が争点になります。痛いですね。

撤回できるケース 撤回できないケース(判例より)
受贈者が負担をまだ履行していない段階 受贈者がすでに負担の全部または一部を履行した後
負担の内容が極めて軽微で「対価性なし」と判断された場合 長期間にわたる療養看護など実質的な対価が認められる場合
受贈者が契約を知らなかった(合意不成立) 公正証書が作成され双方の意思確認が明確な場合

負担が「対価性を持つほど重い」かどうかが、撤回制限の分水嶺になります。これが条件です。

負担付死因贈与の判例から見る「不動産仮登記」の実務的重要性

受贈者が負担を履行し始めていても、贈与者が第三者に不動産を売却してしまった場合はどうなるのでしょうか?

判例は撤回を制限しますが、それだけでは第三者への対抗はできません。不動産登記法の世界では、「先に登記した者が勝つ」が原則だからです。つまり、撤回制限の判決があっても、第三者が先に所有権移転登記を完了してしまうと、受贈者は不動産を取得できなくなるリスクがあります。

これを防ぐのが死因贈与を原因とする仮登記(条件付所有権移転仮登記)です。

仮登記を入れておけば、贈与者が死亡した段階でその仮登記を本登記に変えることができ、仮登記後に行われた第三者への売買登記に優先できます。実務上は公正証書を作成した後、速やかに仮登記を申請することが鉄則と言えます。

登記費用について補足すると、死因贈与による所有権移転登記の登録免許税は固定資産税評価額の2%です。一方、相続による所有権移転は0.4%であるため、同じ不動産でも手続きの種類によって登記費用が5倍近く変わります。評価額3,000万円の不動産であれば、相続なら12万円、死因贈与なら60万円と、差額は48万円にもなります。これは使えそうです。

  • 📝 死因贈与契約書は必ず公正証書で作成する
  • 🏷️ 公正証書作成後、速やかに条件付所有権移転仮登記を申請する
  • 📋 仮登記の登録免許税は固定資産税評価額の1%(本登記時にさらに1%)
  • ⚠️ 口頭の死因贈与契約は立証困難で紛争リスクが極めて高い

仮登記が入っているかどうかで、受贈者の保護レベルは大きく変わります。不動産業者として関与する案件では、仮登記の有無を必ず確認する習慣をつけてください。

負担付死因贈与と遺贈の違い:不動産実務で混同しやすい課税・登記の落とし穴

「どうせ死んだら財産が移るんだから、遺贈と同じでしょ」という認識は危険です。意外ですね。法的性質から税務上の扱い、登記手続きまで複数の点で異なります。

まず遺贈との最大の違いは「契約か単独行為か」という点です。遺贈は遺言者の一方的な意思表示であり、相手の同意は不要です。一方、死因贈与は受贈者との双方合意による契約なので、受贈者の承諾が成立要件になります。

税務面では、死因贈与により取得した財産は相続税の課税対象になります(相続税法1条の3)。これは遺贈と同じ扱いです。ただし、死因贈与は「相続または遺贈」ではなく「贈与」として位置づけられるため、相続人が受贈者の場合でも相続税法上は「遺贈」と同様に処理される一方、登記原因は「死因贈与」と明記しなければなりません。

不動産取得税については注意が必要です。相続による取得は非課税ですが、死因贈与による取得は不動産取得税が課税されます。固定資産税評価額3,000万円の物件なら、不動産取得税は3%(住宅用地の軽減措置適用前)で最大90万円の負担が生じます。

比較項目 死因贈与 遺贈
法的性質 契約(双方合意) 単独行為(遺言)
相続税 課税(遺贈と同扱い) 課税
不動産取得税 ✅ 課税 ❌ 非課税(相続人への遺贈)
登録免許税 評価額の2% 評価額の0.4%(相続人)
仮登記の可否 ✅ 可能 ❌ 不可

コスト面だけ見れば死因贈与は遺贈より割高になりやすいですが、受贈者の保護(仮登記による対抗力)という観点では死因贈与に優位性があります。つまり一長一短です。

負担付死因贈与の判例で示された「負担不履行」と契約解除のリスク

死因贈与であっても、負担が付いている場合は受贈者の義務不履行を理由に契約が解除される可能性があります。これが見落とされがちなリスクの一つです。

関連する最高裁判例として、最高裁昭和53年(1978年)7月20日判決があります。この判決では、負担付死因贈与の受贈者が負担を履行しなかった場合、贈与者は契約を解除できるという判断が示されました。遺贈には「負担不履行による解除」という概念がありますが、死因贈与においても同様の解除が認められるということです。

不動産実務における具体的なリスクシナリオは以下の通りです。

  • 🔴 「同居して介護する」という負担を受贈者が途中で放棄 → 贈与者が解除の意思表示
  • 🔴 「ローンを引き継いで毎月返済する」という負担を受贈者が数ヶ月滞納 → 解除の可能性
  • 🔴 贈与者が死亡後に負担不履行が発覚 → 相続人が解除権を行使するケースも

贈与者が亡くなった後でも、相続人が解除権を行使できる場合がある点は実務上の盲点です。契約書に解除条件を明確に定めていなかった場合、贈与者の死後に相続人と受贈者の間で紛争が生じるリスクが高まります。

対策として、契約書に「負担の具体的な内容と評価基準」「履行確認の方法」「解除の手続きと要件」を詳細に記載しておくことが重要です。可能であれば弁護士や司法書士が関与した公正証書での作成を検討する価値があります。

負担の内容が曖昧なほど紛争リスクは高まります。不動産業者が関与する場面では、こうした法的リスクを依頼者に事前に説明することが、後のクレーム防止にもつながります。

不動産業者が見落としやすい:負担付死因贈与の判例と「相続放棄」「遺留分」の関係

負担付死因贈与は契約なので、相続開始後に相続人が相続放棄をしても、その死因贈与契約の効力には原則として影響しません。これは遺言と同じ扱いです。

ただし、遺留分との関係では注意が必要です。

死因贈与は「贈与」の一種であるため、相続開始前1年以内にされた負担付死因贈与は、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)の対象になり得ます(民法1044条)。また、双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした場合は、1年以上前の死因贈与であっても対象になります。

実務上よく問題になるのは、以下のようなケースです。

  • ⚠️ が長男に不動産を死因贈与 → 次男が遺留分侵害額請求を提起
  • ⚠️ 受贈者が仮登記で本登記まで完了 → 遺留分権利者が金銭請求で争う(現物返還ではなく金銭)
  • ⚠️ 負担の履行状況が不明確 → 遺留分との調整額の算定が複雑化

2019年の民法改正(令和元年施行)で遺留分は金銭債権化されました。遺留分権利者は現物の返還を請求できず、金銭での支払いを求める形になっています。不動産の受贈者が現金を持っていない場合、不動産を売却して遺留分相当額を支払うというケースも実際に起きています。

遺留分侵害額の計算は複雑で、負担の評価(介護の金銭的価値など)が争点になることもあります。不動産業者として案件に関わる際には、相続人の範囲と遺留分割合を事前に確認し、弁護士への相談を促すことが依頼者保護の観点から重要です。結論は「早期の専門家相談」が鍵です。

参考:遺留分に関する民法改正の詳細(法務省)

法務省:相続法の改正(遺留分制度の見直し)について

参考:死因贈与に関する条文・解説(e-Gov法令検索)

e-Gov法令検索:民法(554条:死因贈与、1044条:遺留分と贈与の関係)