数次相続の遺産分割協議書と法務局申請の実務ポイント
数次相続が起きた案件では、協議書を1通にまとめられると思っている方が多いですが、実は中間相続人が単独相続の場合に限り、協議書を1枚に集約して法務局に提出できます。これを知らないと、不要な書類作成で数週間の時間を無駄にします。
数次相続とは何か:不動産登記実務での定義と発生パターン
数次相続とは、最初の被相続人(一次被相続人)の相続手続きが完了しないまま、相続人の一人が死亡し、さらに相続が発生した状態を指します。簡単に言えば「相続の連鎖」です。
不動産業務の現場では、昭和・平成初期に亡くなった方名義の土地建物が今もそのままになっているケースが珍しくありません。法務省の調査によると、所有者不明土地のうち約66%が相続登記未了に起因するとされており、その多くに数次相続が絡んでいます。
発生パターンは主に3つあります。
- 🔹 パターン①:父が死亡→相続手続き中に母も死亡→子が両方の相続を処理する
- 🔹 パターン②:祖父が死亡→息子(相続人)が手続き未了のまま死亡→孫が相続
- 🔹 パターン③:相続人が複数おり、協議中に一人が死亡→その配偶者や子が協議に加わる
特にパターン②・③は、当初の相続人が増加するため、遺産分割協議書への署名押印を集める作業だけで数ヶ月かかることがあります。これは大変です。
不動産取引の場面では、売主の名義が数十年前に亡くなった人物のままになっているケースで頻繁にこの問題に直面します。売買契約の締結前に相続登記を完了させる必要があり、取引スケジュールに大きく影響します。つまり早期の相続状況確認が原則です。
数次相続の遺産分割協議書:1通にまとめられる条件と作成方法
協議書を1通にまとめられるかどうかは、中間相続人(一次相続で相続人となり、かつ二次相続の被相続人となった人物)が単独相続人かどうかで決まります。これが条件です。
【1通にまとめられるケース】
たとえば、祖父(一次被相続人)の遺産を息子(中間相続人・単独相続人)が相続する予定だったが、息子が先に亡くなり孫たちが相続するとします。この場合、最終的な遺産の帰属先を決める協議書を1通作成し、「祖父の遺産を孫A・孫Bが〇〇の割合で相続する」と記載することで、法務局は中間の相続登記を省略して直接最終相続人への登記申請を受け付けます。
【別々に作成が必要なケース】
息子(中間相続人)に兄弟がいた場合、息子の相続分については兄弟も協議に参加する必要があります。この場合、一次相続の協議書と二次相続の協議書を別々に作成しなければなりません。
| 状況 | 協議書の数 | 登記申請の件数 |
|---|---|---|
| 中間相続人が単独相続人 | 1通(統合可能) | 1件(中間省略) |
| 中間相続人が複数相続人の一人 | 2通以上(別々) | 2件以上(各相続ごと) |
協議書の記載内容には法定の様式はありませんが、法務局の審査を通過するために以下の情報は必須です。
- 📌 被相続人の氏名・死亡日・最後の住所(住民票または除票で確認)
- 📌 相続財産の特定(不動産の場合は登記簿上の地番・家屋番号・地目・地積)
- 📌 相続人全員の氏名・住所・実印の押印
- 📌 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
印鑑証明書の期限に注意です。特に遠方の相続人や高齢の相続人がいる場合、証明書の取得から協議書への押印まで時間がかかり、気づいたら3ヶ月を超えていたというトラブルが実際に発生しています。痛いですね。
数次相続の法務局申請:登記申請書の作成と添付書類一覧
数次相続の登記申請は、通常の相続登記よりも添付書類が格段に増えます。中間省略登記を活用できる場合でも、一次・二次それぞれの相続を証明する書類をすべて揃える必要があります。
【必要な添付書類リスト(中間省略ケース)】
- ✅ 一次被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)
- ✅ 一次被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- ✅ 中間相続人(兼・二次被相続人)の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- ✅ 二次相続人全員の戸籍謄本
- ✅ 二次相続人全員の住民票
- ✅ 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)
- ✅ 相続人全員の印鑑証明書(発行3ヶ月以内)
- ✅ 固定資産税評価証明書(登録免許税の計算根拠)
登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%(相続による所有権移転)です。たとえば評価額が2,000万円の土地なら8万円の登録免許税がかかります。2024年4月から相続登記が義務化されたことで、放置し続けると10万円以下の過料(行政罰)の対象となることも覚えておきましょう。
法務局への申請方法は3つあります。
- 🏛️ 窓口申請:不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)に直接持参
- 📮 郵送申請:書留郵便等で管轄法務局に送付
- 💻 オンライン申請:法務省の「登記・供託オンライン申請システム」を利用
オンライン申請は使えそうです。ただし、添付書類のスキャンデータが必要で、かつ電子署名(マイナンバーカード等)が必要なため、慣れない方には窓口申請が確実です。
事前の法務局相談(登記相談)は積極的に活用してください。数次相続の案件は個別事情が複雑で、管轄法務局の担当者に確認することで申請却下リスクを大幅に下げることができます。予約制の相談窓口(無料)を設けている法務局が多く、全国どこでも利用可能です。
法務局の相談窓口や管轄局の検索については以下が参考になります。
法務省:登記所(法務局)の所在地・管轄のご案内ページ
数次相続で遺産分割協議書の署名を拒否された場合の対処法
数次相続の案件では、相続人の数が一次・二次と積み重なることで、面識のない遠縁の親族が協議に参加するケースが珍しくありません。その中で「署名押印を拒否する」「連絡がとれない」という事態は実務上よく起きます。
まず選択肢として考えられるのが「遺産分割調停」です。家庭裁判所に申し立て、調停委員を介して協議を進める手続きで、申立手数料は1,200円程度(収入印紙)と非常に安価です。調停が成立すれば調停調書が作成され、これを法務局に提出することで遺産分割協議書の代わりになります。
調停でも合意に至らない場合は「遺産分割審判」に移行し、裁判所が分割方法を決定します。審判書謄本が協議書の代わりとなります。これが最終手段です。
もう一つの実務的な対処法として、「相続人申告登記」があります。2024年4月施行の改正不動産登記法で新設されたこの制度は、相続人の一人が「自分が相続人である」と申告するだけで、相続登記義務の履行猶予を得られるものです。協議が長引く案件で義務違反による過料リスクを回避するために使えます。
- ⚠️ 相続人申告登記は本来の所有権移転登記ではなく、あくまで義務履行の猶予措置です
- ⚠️ 最終的には遺産分割協議書に基づく本登記が必要です
- ⚠️ 不動産売買の際には本登記が完了していないと売主名義として使えません
不動産取引の実務では、売買前提で相続人が急いでいる案件では、司法書士に依頼して並行して調停手続きを進めるのが現実的です。依頼費用は事務所によって異なりますが、調停申立から審判まで視野に入れると司法書士・弁護士費用として30万〜100万円程度を見込む必要があります。
相続人申告登記の詳細については法務省の公式解説が参考になります。
法務省:相続登記の義務化および相続人申告登記について
数次相続と代襲相続の違い:不動産業従事者が混同しがちな2つの概念
数次相続と代襲相続は混同されやすいですが、法律上の扱いも、遺産分割協議書の作成方法も、法務局への申請手続きも大きく異なります。この違いを理解していると、登記申請のやり直しを防ぐことができます。
【数次相続】
相続が開始した後(被相続人の死亡後)に相続人が死亡した場合。相続人は一度「相続権」を取得し、その後亡くなる流れです。
【代襲相続】
相続が開始する前(被相続人の死亡前)に相続人が死亡していた場合。民法887条・889条に基づき、死亡した相続人の子が「代わりに相続する」形です。
| 比較項目 | 数次相続 | 代襲相続 |
|---|---|---|
| 相続人死亡のタイミング | 被相続人の死亡後 | 被相続人の死亡前 |
| 協議書の統合 | 条件付きで可能 | 1通で足りる |
| 登記申請の件数 | 条件によって1件or複数件 | 原則1件 |
| 必要な戸籍 | 各相続分の出生〜死亡戸籍 | 代襲者の戸籍のみ追加 |
実務上のよくある間違いは、「祖父より前に父が亡くなっていたので数次相続で処理した」というケースです。これは代襲相続であり、数次相続ではありません。代襲相続なら協議書は1通で足り、中間省略の概念自体が不要です。
逆のパターンとして「祖父が亡くなってから父が数ヶ月後に亡くなったので代襲相続で申請した」という誤りも起こります。この場合は数次相続として処理しないと法務局に却下されます。却下後の再申請は時間と費用の無駄になるので要注意です。
タイミングの確認に使う書類は死亡日が記載された戸籍謄本です。被相続人の死亡日と相続人の死亡日を並べて確認することが、正確な分類の第一歩になります。死亡日の確認が条件です。
数次相続の遺産分割協議書が無効になるリスク:不動産業従事者が見落としがちな落とし穴
完成した遺産分割協議書が法務局の審査で却下される、あるいは後から無効を主張されるリスクは、数次相続の案件では特に高まります。よくある落とし穴を知っておくことで、余分なやり直し作業と費用を防ぐことができます。
【落とし穴①:相続人の特定漏れ】
数次相続では、二次相続人の調査を戸籍謄本で行う際に、認知した子・養子縁組した子を見落とすケースがあります。特に昭和時代の戸籍は複数の本籍地に分散していることがあり、すべての戸籍を追わないと相続人が確定できません。協議書に署名すべき相続人が一人でも欠けると、その協議書は無効です。
【落とし穴②:相続放棄の確認忘れ】
一次相続の段階で相続放棄をしていた相続人がいると、その人は数次相続の協議には参加しません。相続放棄申述受理証明書で確認できますが、放棄の事実を知らないまま協議書を作成してしまうと、後から法務局に認められないことがあります。これは必ず確認が必要です。
【落とし穴③:印鑑証明書の有効期限切れ】
前述のとおり、印鑑証明書は発行から3ヶ月以内のものでないと登記申請に使えません。特に複数の相続人が分散している数次相続案件では、全員の印鑑証明書の有効期限が一致するよう段取りを組む必要があります。一人でも期限切れがあると、その分だけ再取得が必要になり、他の相続人の分まで期限切れになるリスクが連鎖します。
【落とし穴④:遺言書との競合】
一次被相続人または中間相続人が遺言書を残していた場合、遺産分割協議書より遺言書が優先されます。公正証書遺言は公証役場で確認できますが、自筆証書遺言は法務局の「自筆証書遺言書保管制度」に保管されていることもあります。協議書を作る前に遺言書の有無を確認しておくことが重要です。
これらの落とし穴を事前にチェックリスト化しておくと、案件受任時の調査漏れを防ぐことができます。不動産取引の仲介場面では、相続関係の調査を司法書士と連携して進めることで、売買スケジュールのトラブルを大幅に減らすことが可能です。
法務局の自筆証書遺言書保管制度の詳細は以下で確認できます。
法務省:自筆証書遺言書保管制度について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

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