宅地造成工事規制区域外の届出と盛土規制法を正しく理解する
規制区域外なら届出はいらない、そう思って手続きを省いた結果、無許可工事として懲役刑のリスクを負います。
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宅地造成工事規制区域外の届出が必要になる3つのケース
「規制区域外だから届出は不要」という考え方は、実務では大きな落とし穴になります。盛土規制法(正式名称:宅地造成及び特定盛土等規制法)では、規制区域内でも工事の許可が不要なケースがある一方、区域外であっても届出義務が発生する場面が複数存在します。この仕組みを正確に理解しておくことが、不動産実務の前提です。
まず1つ目のケースが、「区域指定の際にすでに工事が進行していた」場合です。宅地造成工事をスタートさせた時点では、その土地がまだ規制区域に指定されていなかったとしても、工事の途中で区域に指定されることがあります。この場合、工事主は区域指定があった日から21日以内に都道府県知事へ届け出る義務を負います(盛土規制法第21条第1項)。指定を知らなかったでは済まされません。
2つ目は、「高さ2mを超える擁壁または排水施設の除却工事を行う場合」です。これは工事に着手する日の14日前までに届け出る必要があります(事前届出)。擁壁を撤去することは、がけ崩れや土砂の流出のリスクを高める行為です。それゆえ、設置工事よりも除却工事のほうが届出を要する仕組みになっている点は、多くの実務者が意外に感じるポイントです。設置は届出不要、除却は届出必要です。
3つ目は、「公共施設用地を宅地または農地等に転用した場合」で、転用した日から14日以内に届け出る必要があります。こちらは事後届出です。公共施設として使われていた土地が一般の宅地や農地に転じると、土地の利用形態が変わり、災害リスクの評価が変わります。そのため、知事への報告義務が生じます。
この3パターンをまとめると、①は区域指定後21日以内の事後届出、②は工事14日前の事前届出、③は転用後14日以内の事後届出です。②だけが事前届出である点を特に覚えておきましょう。
| 届出が必要なケース | 期限 | 届出の種別 |
|---|---|---|
| 区域指定の際に工事を行っている工事主 | 指定から21日以内 | 事後届出 |
| 高さ2m超の擁壁等の除却工事を行う者 | 着工14日前まで | 事前届出 |
| 公共施設用地を宅地・農地等に転用した者 | 転用後14日以内 | 事後届出 |
届出の期限や種別を間違えると違反になります。手続きの漏れが後になって大きな法的問題に発展することも多いため、取引前の確認を欠かさないようにしてください。
参考:宅地造成等に関する届出の種別と期限については、全日本不動産協会の解説記事が実務的視点でわかりやすくまとめられています。
全日本不動産協会埼玉県本部|宅地造成工事規制区域の届出制について(宅建試験対策コラム)
宅地造成工事規制区域外に指定される「造成宅地防災区域」とは
宅地造成工事規制区域外の土地だからといって、すべての行政規制から解放されるわけではありません。都道府県知事は、宅地造成工事規制区域外にある造成宅地のうち、地震などの影響でがけ崩れや土砂の流出が発生するおそれが特に大きいと認める区域を「造成宅地防災区域」として指定することができます(旧宅地造成等規制法・現盛土規制法の枠組み)。
つまり、規制区域外の土地であっても、この防災区域に指定されると、所有者・管理者・占有者には土地の保全義務が課せられます。さらに都道府県知事は、災害防止のために必要と判断した場合、改善のための勧告や改善命令を発することができます。勧告を無視して改善命令に従わない場合、行政代執行による強制的な工事施行も法的には可能です。意外ですね。
不動産取引を行う際、重要事項説明の調査項目として「造成宅地防災区域かどうか」は欠かせない確認事項です。全国的にはこの防災区域の指定件数はごく限られていますが、指定されている地域では、物件の価値評価や将来の維持費用に大きく影響します。盛土規制法の施行後は、旧来の宅地造成工事規制区域が大幅に拡大されたため、防災区域の新規指定は相対的に少なくなる傾向もあるものの、過去に造成された土地には引き続き注意が必要です。
🔍 調査する際は「◯◯(市区町村名) 造成宅地防災区域」と検索するか、役所の担当窓口(防災課・都市計画課など)に直接問い合わせる方法が確実です。
また、造成宅地防災区域については重要事項説明の説明義務がある点も見落とせません。宅地建物取引業法第35条第1項第2号および施行令第3条第1項第27号に基づき、当該区域に該当するかどうかを買主に対して書面で説明する必要があります。説明漏れは宅建業法違反に直結します。規制区域外だからこそ丁寧な確認が必要です。
参考:造成宅地防災区域の定義・調査方法・重要事項説明での取り扱いについての解説は以下が参考になります。
盛土規制法の施行で「区域外」という認識が通用しなくなった背景
令和5年(2023年)5月26日に施行された盛土規制法は、不動産実務の常識を根本から変えました。それ以前の旧宅地造成等規制法(旧宅造法)では、規制の対象は「宅地造成工事規制区域内」に限定されていました。区域外の農地・森林・平地部では、いくら大規模な盛土を行っても、法的な許可や届出の義務がないケースが多かったのです。
この「規制のスキマ」が悲劇を生みました。令和3年(2021年)7月3日、静岡県熱海市伊豆山で大規模な土石流が発生し、死者・行方不明者28名、損壊家屋136棟という甚大な被害をもたらしました。事後の調査で、崩壊の原因となった盛土が法規制の対象外の区域に存在していたことが明らかになり、社会に大きな衝撃を与えました。
この教訓から制定されたのが盛土規制法です。規制区域の指定根拠が「宅地造成の危険性」だけでなく、「盛土等により人家等に被害を及ぼしうる可能性」に広がりました。その結果、旧法では規制区域に指定されていなかった農地・森林・渓流上流の斜面地まで、「宅地造成等工事規制区域」または「特定盛土等規制区域」として新たに指定されることになりました。
- 🏗️ 宅地造成等工事規制区域:市街地・集落とその周辺など、盛土等が行われると近隣の人家等に直接危害を及ぼしうるエリアを対象とします。
- ⛰️ 特定盛土等規制区域:市街地・集落から離れていても、地形等の条件から盛土等の崩落が土石流化して下方の人家等に危害を及ぼしうるエリア(渓流上流の斜面地など)を対象とします。
神奈川県では令和7年(2025年)4月1日から盛土規制法に基づく規制を開始し、旧法で3市町の一部にしか指定されていなかった区域が、県所管全域(横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市を除く29市町村)に拡大されました。規制エリアが文字通り別次元の広さになっています。「ここは規制区域外だから問題ない」という従来の感覚が、各都道府県での運用開始とともに通用しなくなっていく現状は、不動産従事者として必ず把握しておく必要があります。
参考:盛土規制法の制定背景・規制の全体像については、全日本不動産協会の弁護士解説が詳しくまとめられています。
全日本不動産協会|盛土規制法(宅地造成および特定盛土等規制法)施行で何がどう変わった?
宅地造成工事規制区域外での届出違反・無許可工事の罰則リスク
届出や許可の義務を怠った場合、どれほどのリスクがあるのか。これを正確に知っておくことが、実務上の判断を変えます。
盛土規制法のもとでは、無許可で盛土等を行った場合、命令違反を行った場合などに罰則が適用されます。その水準は旧法と比べて大幅に引き上げられており、最大で懲役3年以下または罰金1,000万円以下の刑事罰が科せられます(個人の場合)。法人に対しては、さらに厳しく最大3億円以下の罰金が科せられます。これは従来の条例罰則の上限を上回るレベルに意図的に設定されています。
重い罰則ですね。不動産会社として、売主から依頼された土地の造成工事に関与する際や、開発業者との協力取引を行う際には、この罰則水準を念頭に置いた確認が不可欠です。
- ❌ 無許可で規制対象の宅地造成等を行った場合
- ❌ 虚偽・不正な手段で許可を取得した場合
- ❌ 災害防止措置命令・工事施行停止命令に違反した場合
- ❌ 技術的基準に違反した設計を行った設計者
- ❌ 設計図書に従わずに工事を施行した工事施行者
また、届出義務そのものへの違反(届出をしない、または虚偽の届出をした場合)も罰則の対象となります。罰則は工事主だけに課されるのではなく、設計者・工事施行者も対象となりうる点も覚えておきたいポイントです。
実務上の対策として、取引に関わる土地が規制区域内かどうかの確認には、各都道府県や市区町村の公式サイトで公開されている区域図を使うのが最も確実です。多くの自治体では盛土規制法の施行に合わせてGISベースの区域図を公開しています。取引前の調査段階でこれを確認することをルーティン化することが、法的リスクの回避につながります。
参考:国土交通省による盛土規制法の罰則・手続き説明はこちらを参照ください。
国土交通省|宅地造成及び特定盛土等規制法(通称「盛土規制法」)について
重要事項説明における宅地造成工事規制区域外の届出と調査の実務ポイント
不動産仲介の現場で最も見落としやすいのが、重要事項説明における盛土規制法関連の記載です。盛土規制法は宅地建物取引業法施行令第3条第1項第27号に明記された説明義務対象法令です。説明を怠ると、宅建業法違反として処分対象になります。
調査・説明の対象となる主な項目は、以下の通りです。
- 📌 対象物件が「宅地造成等工事規制区域」内かどうか
- 📌 対象物件が「特定盛土等規制区域」内かどうか
- 📌 対象物件が「造成宅地防災区域」内かどうか
- 📌 現在進行中の工事があれば、その許可・届出の状況
規制区域外の物件でも「造成宅地防災区域」の確認は必要です。区域外だからといって確認作業を省略してはいけません。
重要事項説明と連動して見落とされがちな点は、宅建業者が宅地造成工事の許可を得る前に宅地の広告を出すことが禁止されている点です。宅建業法第33条に基づき、盛土規制法の許可を受けた後でなければ、当該宅地の売買等に関する広告を開始できません。開発業者と協力して先行広告を出してしまうケースは、実務上の典型的な違反パターンです。
また、みなし許可の取り扱いについても注意が必要です。都市計画法の開発許可を受けた場合、盛土規制法の許可を受けたものとみなされます(みなし許可)。ただし、みなし許可の場合でも、現場での標識掲出・定期報告・中間検査などの手続きは別途必要です。「開発許可があるから盛土規制法は関係ない」という判断は誤りです。みなし許可でも手続きは必要です。
実務的には、取引に関わる土地の調査を行う際に、以下のチェックフローを標準化することをお勧めします。
- 各都道府県・市区町村の公開区域図で規制区域を確認する
- 造成宅地防災区域の指定の有無を役所窓口で確認する
- 現在施工中または施工予定の工事がある場合、許可・届出状況を確認する
- 開発許可を受けている場合でも、盛土規制法上の追加手続きを確認する
- 重要事項説明書に該当項目を漏れなく記載・説明する
参考:盛土規制法に基づく重要事項説明の対象項目・広告制限については以下の解説が参考になります。
LIFULL HOME’S Business|盛土規制法とは?主な規制内容と重要事項で説明すべき項目を解説

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