信用失墜行為の禁止と技術士の義務を不動産従事者が知るべき理由

信用失墜行為の禁止と技術士の義務・責務を正しく理解する

業務外のプライベートな行動でも、技術士登録が取り消されることがあります。

⚡ この記事の3つのポイント
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信用失墜行為の禁止とは?

技術士法第44条に定められた3義務の一つ。技術士・技術士補の社会的信用を傷つけ、全体の不名誉となる行為を禁じる規定です。

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違反すると登録取消も

技術士法第36条の2に基づき、義務違反があった場合は「登録の取消し」または「2年以内の名称使用停止」の行政処分が下されます。

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不動産従事者にも直結する話

建設部門の技術士を抱える不動産会社・建設会社では、技術士の義務違反がそのまま会社の信用問題につながるリスクがあります。


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信用失墜行為の禁止(技術士法第44条)の条文と意味

技術士法第44条には、次のように定められています。

「技術士又は技術士補は、技術士若しくは技術士補の信用を傷つけ、又は技術士及び技術士補全体の不名誉となるような行為をしてはならない。」

シンプルな文章ですが、この一文には重要な意味が凝縮されています。「自分個人の信用を守れ」という話だけではありません。一人の技術士が不名誉な行動をとると、技術士全体のブランドを傷つけることになるという集団的な責任まで含まれているのです。

たとえば、建設部門の技術士が構造計算書を改ざんしたとします。その行為は「個人の問題」にとどまらず、業界全体への不信につながります。2017年に発覚した神戸製鋼の検査データ改ざん問題は、技術士が関与していれば第44条違反の典型例として位置づけられる事案でした。影響は同社にとどまらず、同社製品を使用していたメーカー数百社にまで及び、対応に追われた事例です。

つまり信用失墜行為の禁止です。

不動産業界で建設・土木分野の技術士を雇用している会社や、技術士資格を保有しながら不動産開発に携わっているケースでは、この義務は特に意識が必要です。

参考:技術士法 第四十四条(e-Gov 法令検索)

e-Gov 法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

信用失墜行為に該当する具体的なケースとは

「信用を傷つける行為」と言われても、具体的に何が該当するのかはイメージしにくいものです。実際、技術士試験の口頭試験でも頻出の質問です。

条文の文言上は「信用を傷つける行為」「不名誉となる行為」と書かれているだけであり、具体的な行為のリストは法律に明示されていません。しかしながら、日本技術士会が公表している倫理事例や、関連資料から整理すると、以下のような行為が該当すると解されています。

分類 具体的な行為例
業務上の不正 データ改ざん、捏造、報告書の虚偽記載
職業倫理違反 名義貸し、無登録部門での業務標榜
社会的な不名誉行為 詐欺・横領などの犯罪行為
対外的な問題行動 SNS上での不当な誹謗中傷、専門性を逸脱した断言

ここで注目すべきは、業務外の行為であっても「技術士全体の不名誉」につながると判断されれば、第44条の対象になりうる点です。

たとえば、技術士であることを名乗った状態でSNS上で虚偽情報を拡散した場合、業務とは直接関係がなくても信用失墜行為にあたる可能性があります。これは意外ですね。業務の外側にいれば安心という考え方は通用しません。

宅地建物取引士(宅建士)の信用失墜行為の禁止(宅建業法第15条の2)においても、「職務に関係しない行為や私的な行為も含まれる」と国土交通省が明示しています。技術士の場合も、同様の解釈が成り立ちます。

日本技術士会が2023年3月に改定した「技術士倫理綱領」では、「技術士は、欺瞞的・恣意的な行為をしない」「業務において捏造・改ざん・盗用をしない」といった具体的な行動指針が明記されました。倫理綱領は法律ではありませんが、第44条の「信用を傷つける行為」の解釈基準として実質的に機能しています。

参考:技術士倫理綱領(公益社団法人 日本技術士会 2023年改定版)

技術士倫理綱領 |公益社団法人 日本技術士会
技術士は、公衆の安全、健康および福利の最優先を念頭に置き、その使命、社会的地位および職責を自覚し、日頃から専門技術の研鑽に励み、つねに中立・公正を心掛け、選ばれた専門技術者としての自負を持ち、本要綱の実践に努め行動する。

信用失墜行為の禁止に違反した場合の罰則と処分

「どうせ罰則はないだろう」と思っている方は、認識を改める必要があります。

技術士法第36条の2に基づき、第4章(義務規定)に違反した場合、文部科学大臣は次の2段階の行政処分を下すことができます。

  • ①技術士・技術士補の登録の取消し
  • ②2年以内の名称使用停止命令

登録取消となれば、文字どおり「技術士」の称号を失います。建設部門の技術士を主任技術者・監理技術者要件として活用している不動産・建設系企業にとっては、技術士1名の登録取消が経営に直結するリスクがあります。

比較として、建築士の場合は処分が4段階(文書注意・戒告・業務停止・免許取消)に細分化されています。一方、技術士の処分は「登録取消か名称使用停止か」の2段階のみです。軽微な戒告という選択肢がない分、いきなり重い処分が下される構造になっています。厳しいところですね。

また、信用失墜行為の禁止そのものへの直接的な刑事罰規定はありませんが、秘密保持義務(第45条)に違反した場合は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰(告訴罪)が技術士法第59条で定められています。建設プロジェクトで知り得た機密情報を第三者に漏洩するケースは、不動産開発現場でも起こりうる話です。1年以下の懲役というと、免許停止より重い刑事責任です。

信用失墜行為の禁止から秘密保持義務まで、技術士の義務は連動して理解する必要があります。

参考:国土交通省「技術者倫理について」(他資格における処分規定の比較表含む)

https://www.mlit.go.jp/common/001156519.pdf

技術士の3義務2責務と信用失墜行為禁止の位置づけ

信用失墜行為の禁止は、技術士に課せられた「3義務2責務」の筆頭に挙げられる義務です。3義務2責務の全体像を把握することで、禁止される行為の輪郭がさらにはっきりします。

🔶 3つの義務(技術士法)

条文 義務名称 罰則
第44条 信用失墜行為の禁止 登録取消・名称使用停止
第45条 秘密保持義務 懲役1年または罰金50万円(刑事罰)
第46条 名称表示の場合の義務 登録取消・名称使用停止

🔷 2つの責務(技術士法)

条文 責務名称 罰則
第45条の2 公益確保の責務 なし(行政処分の対象)
第47条の2 資質向上の責務 なし(行政処分の対象)

罰則があるのは義務のみで、責務には直接的な罰則がありません。これが基本です。

ただし「責務には罰則がないから軽視していい」は大きな誤解です。公益確保の責務(第45条の2)は、「公共の安全・環境の保全を害しないよう努める」という内容であり、建設・土木・不動産開発において極めて重大な規定です。工事の瑕疵が人命に関わるケースでは、公益確保の責務を怠ったとして厳しく問われます。

3義務2責務は「シンピコウメイシ」という語呂合わせで覚えることができます。シン(信用失墜の禁止)・ピ(秘密保持)・コウ(公益確保)・メイ(名称表示)・シ(資質向上)の頭文字です。これは使えそうです。

不動産・建設業の現場でチームに技術士がいる場合、管理者として3義務2責務の内容を把握しておくことが、トラブル予防の第一歩になります。

参考:技術士の3義務2責務をわかりやすく解説(スタディング)

三義務二責務はしっかりと理解する| 講師匠習作の技術士応援ブログ - スタディング

不動産従事者が技術士の信用失墜行為禁止を知っておくべき独自の理由

技術士の義務違反は、技術士本人だけの問題ではありません。これが盲点です。

不動産開発・建設コンサルタント・建設業との兼業会社では、技術士(建設部門・都市及び地方計画など)が会社の「顔」として機能しているケースがあります。主任技術者・監理技術者の配置要件として技術士登録が必要な工事も多く、技術士1名の登録取消が会社全体の受注資格に影響する可能性があるのです。

具体的には、下記のような連鎖リスクがあります。

  • 🔴 技術士がデータを改ざん → 信用失墜行為として登録取消 → 主任技術者不在 → 建設業許可の維持要件が崩れる
  • 🔴 技術士が業務上の機密情報を漏洩 → 秘密保持義務違反 → 刑事告訴・50万円以下の罰金 → 会社の信用失墜・取引先からの信頼喪失
  • 🔴 技術士がSNS上で虚偽の技術情報を発信 → 信用失墜行為のリスク → 社名が拡散されて炎上

さらに、不動産業界特有の事情として「開発許可・都市計画手続き」への関与があります。技術士が公益確保の責務を怠り、環境影響評価や安全性確認を省いて事業推進を優先した場合、住民訴訟や行政指導につながります。こうした問題は金額に換算すると、訴訟費用・損害賠償・事業停止による機会損失として数千万円規模に及ぶことも珍しくありません。

これは行政処分の段階で把握しておく問題です。

信用失墜行為の禁止を「技術士試験の勉強項目」として軽く受け流すのではなく、経営リスクの一つとして捉える姿勢が、不動産・建設業に携わる方には求められています。

日本技術士会が公開している最近の倫理事例集(データ改ざん、外国における法的関係違反、不適切な試験取得等)は、実際の業務で起こりうる状況を元に作成されており、業種問わず参考になります。

参考:最近の技術者倫理事例(公益社団法人 日本技術士会)

https://www.engineer.or.jp/c_cmt/rinri/topics/007/007304.html