特別多数決議マンション管理で必須の可決要件と2026年改正

特別多数決議とマンション管理に必須の可決要件と法改正対応

規約の変更を議決権の割合だけで4分の3超えても、人数が不足すると否決になります。

この記事の3つのポイント
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特別多数決議は「人数」と「議決権」の両方で4分の3が必要

区分所有法では、規約変更や共用部分の重大変更など重要事項は、区分所有者数・議決権数どちらも4分の3以上の賛成が求められます。片方だけでは否決となります。

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建替え決議は「5分の4」のさらに厳しい要件

建物の建替えは通常の特別決議(4分の3)では不足です。区分所有法第62条により、区分所有者数・議決権数ともに「5分の4以上」の賛成が必要です。

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2026年4月施行の改正法で決議の分母が「出席者」に変わる

改正区分所有法では特別多数決議の分母が「全区分所有者」から「出席者(委任状・書面投票含む)」になりますが、規約改正がなければ旧法が適用されます。

特別多数決議とは何か:マンション管理における基本ルール

マンション管理の現場では、日常的な管理運営と、建物や居住環境を大きく左右する重要事項とでは、意思決定に必要な賛成数が異なります。日常的な事項は「普通決議(過半数)」、区分所有者の権利や財産に関わる重大な事項は「特別多数決議」によって決定されます。

特別多数決議の基本的な成立要件は、区分所有法第31条・第17条などで規定されており、区分所有者数と議決権数(通常は専有部分床面積割合に比例)の両方が、それぞれ4分の3以上の賛成を得ることです。つまり、「人数の4分の3」だけ、あるいは「議決権の4分の3」だけでは足りません。両方同時にクリアして初めて決議は成立します。これが原則です。

普通決議との違いを表にまとめると、以下のようになります。

決議の種類 主な対象事項 成立要件
普通決議 管理費予算の決定、管理委託契約の締結・更新、管理者の選任など 区分所有者数・議決権数の各過半数
特別多数決議 規約の設定・変更・廃止、共用部分の重大変更、義務違反者への措置など 区分所有者数・議決権数の各4分の3以上
建替え決議 建物の建替え(区分所有法第62条) 区分所有者数・議決権数の各5分の4以上

宅建事業者がマンション取引に関わる際、この区別を正確に押さえておくことは基本です。たとえば管理組合の決議の有効性を確認する場面で、誤った要件で可決されていたことが後から判明した場合、当該決議は無効となります。その後のトラブルに発展するリスクも伴います。

特別多数決議が必要とされる主な事項を以下に整理します。

  • 規約の設定・変更・廃止(区分所有法第31条)
  • 共用部分の形状・効用の著しい変更(区分所有法第17条)
  • 管理組合法人の設立・解散(区分所有法第47条・第55条)
  • 義務違反者への使用禁止請求・競売請求(区分所有法第58条・第59条)
  • 大規模滅失時(価格の2分の1超)の復旧決議(区分所有法第61条)
  • 占有者への引渡し請求(区分所有法第60条)

区分所有者が多いマンションほど、4分の3という数字の重さは増します。意外ですね。

参考:区分所有法第31条・第17条・第39条の条文確認に有用です。

e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(国土交通省)

特別多数決議のマンション総会で見落としがちな「人数要件の緩和」規定

特別多数決議は一律に「4分の3」が必要と思われがちですが、実はひとつの重要な例外があります。共用部分の変更に関する決議です。

区分所有法第17条は、共用部分の形状または効用の著しい変更を伴う工事について特別多数決議を定めていますが、そのただし書きに「区分所有者の定数(人数要件)については、規約で定めることにより過半数まで減ずることができる」と規定されています。

これは具体的にどういう意味かを説明します。100戸のマンションで共用部分に大規模な変更工事(たとえばエレベーターの新設など)を行う場合、本来は75戸以上の区分所有者の賛成が必要です。しかし、規約でこの人数要件を過半数まで緩和していれば、51戸以上の区分所有者の賛成があれば足りることになります。ただし、議決権(床面積割合)の4分の3以上という要件は変わらず維持されます。

つまり、人数と議決権のうち「人数」だけが規約によって緩和できるということです。規約で緩和できるのは原則ここだけです。

  • ⭕ 共用部分変更の「区分所有者数(人数)」→ 規約で過半数まで緩和可能
  • ❌ 共用部分変更の「議決権(床面積割合)の4分の3」→ 緩和不可
  • ❌ 規約の設定・変更・廃止の決議要件 → 緩和も加重も不可

ここで宅建事業者として注意すべき重要な点があります。マンションの管理規約にこの緩和規定が盛り込まれているかどうかで、大規模修繕や共用部分改修工事の実現可能性が大きく変わってきます。物件調査の際に管理規約を確認する場面で、この点を見落とすと、後になって工事の合意形成が困難になるリスクを買主に伝えられないことになります。

エレベーターの設置費用は1戸あたり平均265万円(49戸・総額約1.3億円の事例)にも達するケースがあります。これほどの費用負担を伴う工事の可否が、規約のひとつの条項で変わりうることは、宅建事業者として把握しておく価値のある情報です。これは使えそうです。

参考:共用部分の変更決議に関する要件の緩和規定について詳しく解説されています。

中島法律事務所「マンション管理の法律入門 Q16:普通決議と特別決議」

特別多数決議の要件を規約で加重できるか:宅建実務で使える法律知識

実務の現場では、「特別多数決議の要件を規約でさらに厳しくすること(加重・厳格化)はできるのか」という疑問が生まれることがあります。たとえば「規約の廃止には区分所有者数・議決権の各90%以上の賛成が必要」といった定めを置くことは有効かどうかです。

この点については、専門書の間でも見解が分かれています。

「コンメンタールマンション区分所有法(第3版)」は、規約の設定・変更・廃止に関する決議要件については規約で加重できないが、それ以外の特別多数決議については加重できるという立場を示しています。

一方、「最新区分所有法の解説(6訂補遺版)」は、第17条(共用部分の変更)の例外を除き、特別多数決議の要件は規約による緩和も加重もできないと解説しています。

この見解の相違は、実務上、非常に重要な意味を持ちます。宅建事業者として管理組合や区分所有者にアドバイスをする際、「決議要件を加重する規約は有効か否か」を断言することは危険です。

さらに仮に加重が有効だとしても、実質的に機能しないという問題もあります。「規約の廃止には各90%以上」と定めたとしても、「その規約の廃止」を定めた規約自体は区分所有法第31条により各4分の3で廃止できます。つまり、「90%ルール」を廃止してから「4分の3」で本題の規約変更を行えば、加重は実質的に意味をなさなくなります。規約で縛りを強めても「抜け道」が存在するということですね。

現実的な対応として、学説上の争いを回避するためにも、区分所有法の原則通りの決議要件で運用することが最も安全です。余計な規約変更は後任の管理組合役員や管理会社が対応に困る可能性が高く、「区分所有法どおり」と言えるシンプルな状態を維持することが賢明です。

特別多数決議の可決が困難な理由と2026年区分所有法改正の影響

現行法のもとで特別多数決議が成立しにくい最大の原因は、決議要件の「分母」の設定にあります。

特別多数決議では、賛成数の計算の母数が「全区分所有者数・全議決権数」です。つまり、総会に欠席している区分所有者、連絡が取れない所在不明者も、すべて分母に含まれます。

100戸のマンションで10戸が所在不明の場合、実質的に連絡できる区分所有者は90戸です。しかし可決に必要なのは100戸の4分の3、すなわち75戸以上の賛成です。これは実質的に関与できる90戸のうち、実に83%以上に相当します。これは非常に高いハードルです。

実際に、70.8%のマンションが特別多数決議に備えて出席率(委任状・書面投票含む)80%以上を確保してきたことが2023年度マンション総合調査で示されています。そのために複数回の説明会や委任状回収を繰り返すなど、多大な労力が費やされてきました。

そこで2025年5月に可決・成立し、2026年4月1日施行が予定されている改正区分所有法では、この「分母」の問題を解消する仕組みが導入されます。

改正の最大のポイントは、特別多数決議における分母が「全区分所有者」から「出席した区分所有者(委任状・書面投票含む)」に変わることです。

ただし、条件があります。改正法の出席者多数決を適用するには、まず区分所有者および議決権の各過半数の出席(定足数)が必要です。この定足数は規約で緩和することはできません。

比較項目 現行法 改正法(2026年4月1日施行予定)
分母 全区分所有者・全議決権 出席した区分所有者・議決権
決議要件 全体の4分の3以上 出席者の4分の3以上
定足数(前提条件) 規定なし(管理規約により設定) 区分所有者・議決権各過半数の出席が必須
規約改正の要否 改正法の適用には規約の見直しが必要

注意すべきは、規約改正を行わなければ、法改正後も旧法の要件が適用される点です。改正法のメリットを受けるには、2026年3月末までに管理規約を改正しておくことが推奨されています。厳しいところですね。

参考:2026年4月施行の改正区分所有法の概要と標準管理規約改正の方向性が解説されています。

国土交通省「令和7年マンション標準管理規約改正の概要」(PDF)

特別多数決議の可決率を上げる実務的な対策と宅建事業者の役割

特別多数決議の成立に向けて、現行法のもとで実際に有効な手段がいくつかあります。宅建事業者として管理組合のサポートに携わる場合、あるいは中古マンションの仲介の場面でアドバイスをする際に役立つ実務的な知識です。

事前説明会の開催が合意形成の鍵になります。総会の60日以上前から、賛成・反対にかかわらず幅広く区分所有者が参加できる説明会を複数回開催することが有効です。平日夜と週末昼など、時間帯を変えて開催することで参加率が上がります。説明会では「なぜこの決議が必要か」という背景情報の提供と、費用負担の根拠を丁寧に説明することが重要です。

議決権行使書・委任状の積極的な回収も欠かせません。総会に出席できない区分所有者の意思を反映させるため、招集通知に議決権行使書を同封し、返送を呼びかけます。電子投票システムを導入しているマンションでは、回収率が向上するケースもあります。期限前のリマインドも効果的です。

名簿の整備と所在不明者の事前対応も大切です。所在不明の区分所有者については、改正区分所有法では裁判所への申し出により分母から除外できる仕組みが導入されますが、これには管理組合として決議を行い、手続きを踏む必要があります。日頃から所有者名簿を最新状態に保つことが前提条件です。

宅建事業者の役割として特に重要なのが、中古マンション仲介時の管理状況の確認と情報提供です。たとえば、所在不明者が多い物件や長年総会決議が成立していない物件では、将来的な大規模修繕工事や規約変更が困難になるリスクがあります。重要事項説明の場面でこうした情報を買主に適切に伝えることが、宅建事業者としての信頼につながります。

また、管理規約に共用部分変更の人数要件緩和規定が盛り込まれているかどうか、2026年改正に向けた規約見直しの進捗はどうかといった点を把握しておくことで、物件の管理品質を的確に評価できるようになります。

なお、管理規約の変更を進める際には、専門家であるマンション管理士や弁護士に相談することが、後のトラブルを防ぐうえで重要です。区分所有法の解釈は専門家によっても見解が分かれることがあるため、法的判断が必要な場面は専門家に委ねる姿勢が原則です。

参考:特別決議を成功させる5ステップと2026年改正への準備について実務的に解説されています。

MIJ-C「特別決議4分の3攻略法:5ステップで成功&2026年改正準備」