住生活基本法の改正と住生活基本計画の見直しで何が変わるか
省エネ性能が低い賃貸に住み続けると、光熱費が年20万円以上余分にかかる場合があります。
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住生活基本法とは何か、そして今回の改正の背景
住生活基本法は、平成18年(2006年)に「住宅建設計画法」に代わって制定された法律です。住生活の安定確保と向上に関する施策を総合的・計画的に推進するための根拠となる、いわば「住まいの憲法」ともいえる存在です。
この法律の第一条には「国民生活の安定向上と社会福祉の増進を図るとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」が目的として明記されています。つまり、住まいの話は福祉や経済にも直結するということですね。
住生活基本法が制定されるまでの住宅政策は、戦後の深刻な住宅不足を解消するため「いかに多く住宅を建てるか」という「量の確保」に重点が置かれていました。実際、高度経済成長期の日本では住宅の数が絶対的に足りず、一定数を新設することが最優先課題でした。
しかし、時代は変わりました。いまや住宅の総戸数は総世帯数を大きく上回り、空き家の数は2023年時点で900万戸を突破し、空き家率は13.8%と過去最高を更新しています(朝日新聞、2024年4月)。量的な目標は達成されたぶん、次は「どう使うか」「質をどう高めるか」という局面に入っています。
こうした背景から、国土交通省:住生活基本法の条文と関連資料(公式)
住生活基本計画の改定スケジュールと新計画の構造
今回の見直しは、令和6年(2024年)10月から社会資本整備審議会住宅宅地分科会で議論が開始されました。令和7年(2025年)11月に「中間とりまとめ」が公表され、12月に素案が提示、令和8年(2026年)1月にはパブリックコメントの募集も行われました。令和8年2月には計画案が正式提出となり、3月の閣議決定が見込まれています。
計画期間は令和8年度〜令和17年度(2026〜2035年度)の10年間です。前回(2021〜2030年度)と重なる部分もありますが、今回の見直しでは優先事項が大きくシフトしています。
新計画の特徴は、目標の整理方法が変わった点にあります。前回の計画では「社会環境・居住者・住宅ストック」という3視点で8つの目標が設けられていました。今回の素案では「住まうヒト・住まうモノ・住まいを支えるプレイヤー」という3視点で11の目標に再編されています。つまり、誰が・どんな住まいで・誰が支えるかという枠組みで政策が整理されたということですね。
11の目標は以下のように構成されています。
「住まうヒト」の視点では、①高齢者が孤立せず希望する住生活を実現できる環境整備、②若年・子育て世帯が希望する住まいを確保できる社会の実現、③住宅確保要配慮者が安心して暮らせる居住環境の整備、④過度な負担なく希望する住生活を実現できる環境整備の4つ。「住まうモノ」の視点では、⑤多世代にわたり活用される住宅ストックの形成、⑥住宅ストックの性能や利用価値が市場で適正評価されるシステムの構築、⑦管理・再生・活用・除却の一体的推進、⑧持続可能な住宅地の形成、⑨災害に対応した安全な住環境の整備の5つ。「プレイヤー」の視点では、⑩担い手の確保・育成と住生活産業の発展、⑪国と地方の住宅行政の役割の明確化の2つ。全体として「ストックに本気で向き合う」という方向性が明確です。
国土交通省:第68回住宅宅地分科会資料(改定案・素案含む)
住生活基本計画の改定で変わる具体的な数値目標
今回の改定で設定された成果指標案には、具体的な数字が並んでいます。ここが特に実生活に直結するポイントです。
まず、高齢者が安心して暮らせる住まいの供給数は、2023年時点で108万戸だったものを2035年までに150万戸とする目標が掲げられました。108万戸から150万戸というのは、単純計算で約4割増しです。これは東京都の全世帯数のおよそ半分に相当する規模感で、かなり野心的な目標といえます。
省エネ性能については、住宅のBEI(一次エネルギー消費量の基準値との比率)の平均を、現在の1.3から1.0まで引き下げることが目標です。BEIが1.3というのは基準よりも3割エネルギーを多く使っている状態を指します。これを1.0に近づけることで、毎月の光熱費が実質的に削減される効果が期待されます。省エネが条件です。
一定の断熱・遮音性能を備える民間賃貸住宅の割合については、現在の9.8%から20%への引き上げが目指されています。つまり今の賃貸住宅のうち約9割は断熱・遮音性能が基準を満たしていないということ。これは意外ですね。
既存住宅取引およびリフォームの市場規模は、令和5年時点の16.9兆円から19.7兆円への拡大が目標です。なお長期的には20兆円超が最終目標に据えられており、国が「新築より中古・改修」にかじを切ったことがよく表れています。
そして、住宅確保要配慮者(低額所得者・高齢者・障害者など)を支える居住支援協議会の設立状況については、現在約4割の市区町村しか人口カバーできていないところを、9割まで引き上げる目標が設定されました。住まいのセーフティネットが全国に広がるのは、多くの人にとっていいことですね。
| 指標 | 現状値 | 目標値 |
|——|——–|——–|
| 高齢者向け住宅の供給数 | 108万戸(2023年) | 150万戸(2035年) |
| 住宅のBEI平均 | 1.3 | 1.0 |
| 断熱・遮音を備える民間賃貸の割合 | 9.8% | 20% |
| 既存住宅・リフォーム市場規模 | 16.9兆円 | 19.7兆円 |
| 居住支援協議会の人口カバー率 | 約4割 | 9割 |
国土交通省:住生活基本計画(全国計画)素案(PDF)—成果指標案の詳細はP.2〜3に記載
空き家・高齢単身世帯の増加に対応した住生活基本計画の新施策
今回の改定でもっとも比重が増した分野の一つが、空き家対策と高齢単身世帯への対応です。
空き家については、前述のとおり2023年時点で900万戸・空き家率13.8%と過去最高水準に達しています。野村総合研究所の試算では、2043年には空き家率が約25%に達するという予測もあります(NRI、2024年6月)。つまり2043年には日本の住宅の4戸に1戸が空き家になる可能性があるということです。厳しいところですね。
新計画の素案では、都市部でも「相続や高齢者の施設入居によって、駅に近く状態のよい未流通の空き家が残る」という現状認識が明示されました。こうした「隠れ優良空き家」をいかに流通させるかが課題として浮かび上がっています。具体的には、空き家のサブリース事業の促進が追記されるなど、流通・活用を後押しする方向性が強まっています。
高齢単身世帯については、2030年以降も増加が続く見通しで、2040年には死亡者数が最大となる「多死社会」が到来するとされています。素案には「2050年に向けた高齢単身世帯の増加や社会経済情勢の不確実性の高まりに対応した居住支援が必要」という認識が明示されています。
こうした状況への対応策として、新計画では「分野横断的な連携による気づきとつなぎのある居住支援の充実」が打ち出されました。医療・介護・住宅・福祉が連携し、高齢者が住み慣れた地域で最後まで安心して暮らせる環境づくりを目指す内容です。
住宅を所有している方、あるいは相続を控えている方にとっては、空き家の維持管理コストや固定資産税の増大が現実的なリスクになっています。空き家バンクへの登録や居住支援協議会への相談窓口を早めに確認しておくことが、具体的な行動の一歩になります。
若者・子育て世帯と住生活基本計画改定の関係——住宅ローン減税・補助金との連動
新しい住生活基本計画は、若者や子育て世帯の住まい確保を重要な柱の一つに据えています。実は、この計画の改定と連動するかたちで、住宅ローン減税の制度変更や補助金拡充が行われることが多く、住宅取得のタイミングを検討する際に計画の内容を把握しておくことは非常に有益です。
2026年度の税制改正では、省エネ基準を満たす中古住宅を取得した場合の住宅ローン控除の適用期間が、これまでの最長10年から13年に延長される改正が実施されました。借入限度額も最大4,500万円への引き上げが検討されており(省エネ性能・子育て世帯要件あり)、中古住宅取得が実質的に後押しされる仕組みが整いつつあります。これは使えそうです。
補助金面では、国土交通省・環境省・経済産業省が連携した「住宅省エネ2026キャンペーン」が2026年3月10日より事業者登録を開始しました。新築住宅で最大125万円、リフォームで最大100万円の補助が受けられる「みらいエコ住宅2026事業」が目玉で、断熱性・省エネ性の高い住宅への誘導が強化されています。
住生活基本計画が「省エネ性能の低い住宅ストックの是正」を数値目標で掲げているということは、逆にいえば省エネ基準を満たさない住宅は将来的に資産価値が下がりやすいリスクを抱えているということでもあります。住まいを選ぶ際や、既存住宅のリフォームを検討する際は、断熱・省エネ性能の確認を優先事項に含めることが大切です。
具体的には、住宅の省エネ性能を示す「省エネ性能ラベル」(2024年4月から新築で義務化)や、建物の状態を専門家が調査する「インスペクション(住宅診断)」の活用が選択肢として挙げられます。まず1回、専門家に相談するだけでも状況が整理されます。
住宅省エネ2026キャンペーン公式サイト—補助金の種類・申請方法が確認できます
住生活基本計画の改定が不動産業者・建設事業者に与える独自の視点——「プレイヤー不足」という見えないリスク
今回の改定で、実は業界関係者が最も注視すべきポイントの一つが「住まいを支えるプレイヤー」視点の目標(目標10・11)の追加です。一般的なメディアではあまり取り上げられない論点ですが、これが住宅市場全体のボトルネックになりつつあります。
日本の建設・不動産業界では、技術者・職人の高齢化と人材不足が深刻です。施工管理技士や大工などの技能者が急激に減少しており、このままでは住宅の供給・リフォーム・管理のいずれも「担い手がいない」状態に陥るリスクがあります。新計画では「担い手の確保・育成や海外展開等を通じた住生活産業の発展」がはじめて独立した目標として設定されており、国がこの問題を真剣に受け止めていることがわかります。
また「国と地方における住宅行政の役割の明確化と推進体制の整備」も目標に含まれています。これは、市区町村レベルの住宅政策を後押しするという意味合いがあります。居住支援協議会の設立が全国的に進まない原因の一つは、各市区町村に専任の住宅担当者がいないケースが多いことです。人口カバー率を4割から9割に引き上げる目標達成には、行政体制の整備が不可欠です。条件が整えば、民間事業者が行政との連携で居住支援事業に参入する機会も広がります。
住宅関連ビジネスに携わる方にとっては、空き家活用(再生・流通)、高齢者対応型住居の提供・改修・普及、エビデンス付き中古住宅流通(インスペクション・性能証明)の三分野が、計画の方向性と最も合致した成長領域です。国の補助金や制度と連動しやすいため、今のうちに事業戦略に組み込んでおく価値があります。
リフォーム産業新聞:住生活基本計画・下請法改正など2026年注目の政策まとめ(2026年1月)