後継ぎ遺贈型受益者連続信託と家族信託の違いを徹底解説

後継ぎ遺贈型受益者連続信託と家族信託の違いを正しく知っておく

遺言さえ書いておけば、孫の代まで財産の行き先を決められると思っていませんか?

この記事の3つのポイント
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遺言だけでは二次承継は無効になる

遺言で指定できる財産承継は一代限り。「長男の死後は孫へ」という内容は法的に無効になる可能性があります。後継ぎ遺贈型受益者連続信託なら複数世代への承継が可能です。

信託法91条の「30年ルール」に要注意

信託開始から30年経過後は受益者の承継が1回限りに制限されます。何世代にもわたる承継を設計する際は、この期間制限を必ず考慮する必要があります。

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受益者が変わるたびに相続税が発生する

後継ぎ遺贈型受益者連続信託は節税対策にはなりません。受益者が交代するたびに相続税が課税されるため、税務面での設計も事前に専門家と確認が必要です。


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後継ぎ遺贈型受益者連続信託と遺言による後継ぎ遺贈の根本的な違い

「自分が死んだら妻へ、妻が死んだら長男へ財産を渡したい」という希望は、多くの方が抱えるごく自然な思いです。しかし、これを遺言だけで実現しようとすると、実は法律上の大きな壁にぶつかります。これが「後継ぎ遺贈」の問題です。
遺言で「妻に相続させる」と書けば、妻への承継は有効です。しかし「妻が亡くなった後は長男に」という部分は、一般的に無効とされています。理由は民法の「物権法定主義」にあります。妻は財産を取得した時点でその所有権を持ちます。所有者である妻の財産をどこへ渡すかを、被相続人が一方的に拘束することは、妻の所有権を勝手に制限することになるため認められないのです(民法第175条・第206条)。
つまり、遺言では「一次承継」しか指定できません。二次承継以降は法的に無効です。
一方、後継ぎ遺贈型受益者連続信託は信託法第91条に基づく制度で、受益権(物権ではなく債権)という特別な権利を使うことで、この問題を解決します。受益権は物権ではないため、権利の内容を当事者が自由に設計できます。受益者が亡くなった際に、次の受益者が受益権を取得するという定めを契約で盛り込むことが可能なのです。
遺言では一代限り、信託では複数世代への承継が可能です。この違いが、後継ぎ遺贈型受益者連続信託の最大の存在意義といえます。

比較項目 遺言による後継ぎ遺贈 後継ぎ遺贈型受益者連続信託
法的有効性 二次承継以降は無効の可能性あり 信託法91条で有効
承継できる世代数 一代限り 複数世代(30年ルールあり)
設定のしやすさ 比較的簡単 専門家のサポートが必要
費用 低コスト 信託財産の0.8〜1.0%程度

参考:信託法第91条(後継ぎ遺贈型受益者連続信託の根拠条文)
e-Gov法令検索:信託法 第九十一条(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)

後継ぎ遺贈型受益者連続信託が家族信託の中に位置づけられる理由

「家族信託」と「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」は、混同されやすい言葉ですが、両者の関係を正確に理解することがとても重要です。
家族信託とは、家族間で財産管理を行う民事信託全般のことを指します。委託者(財産を持つ人)が受託者(信頼できる家族)に財産を託し、受益者(利益を受ける人)のために管理・運用してもらう仕組みです。これは、認知症対策や生前の財産管理、遺言代用機能など幅広い目的で使われます。
一方、後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、その家族信託の中の「特定の使い方」の一つです。いわばサブセットの関係にあります。家族信託の中でも特に「複数世代にわたる財産承継」を目的とした設計を後継ぎ遺贈型受益者連続信託と呼びます。
家族信託の機能は大きく分けると「①生前の財産管理・認知症対策」「②遺言代用(一次承継)」「③受益者連続(二次承継以降)」の3つです。後継ぎ遺贈型受益者連続信託は③に特化した設計です。
つまり、家族信託がより広い概念で、後継ぎ遺贈型受益者連続信託はその目的特化型バージョンです。
信託の設計においては、委託者・受託者・受益者の三者が必要です。自益信託(委託者=受益者)として設定することで、信託設定時に贈与税がかかりません。これが家族信託を組む際の基本的なスキームです。設定から受益者が変わるたびに相続税が課税されますが、信託設定時点では税負担が発生しないよう設計するのが原則です。
参考:信託協会「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」
信託協会:後継ぎ遺贈型の受益者連続信託(個人のための信託)

後継ぎ遺贈型受益者連続信託の30年ルールと相続税の実態

後継ぎ遺贈型受益者連続信託を検討する際に絶対に見落とせない制限があります。それが「30年ルール」と「受益者交代ごとの課税」という二大デメリットです。
30年ルールとは、信託法第91条に規定された期間制限のことです。内容を整理すると次の通りです。

  • 信託契約の開始から30年が経過した後、新たに受益権を取得した受益者が死亡した時点で、信託は強制的に終了します。
  • 30年経過後は受益権の新たな承継は「1回限り」しか認められません。
  • 30年経過前の承継回数に制限はありません。

具体例で考えてみましょう。たとえば信託開始から31年が経過したとき、二次受益者(子)が受益権を取得して死亡した場合、三次受益者(孫)は受益権を取得できますが、その孫が死亡した時点で信託は終了します。ひ孫への承継は叶いません。
次に相続税の問題です。後継ぎ遺贈型受益者連続信託では、受益者が変わるたびに相続税が課税されます。これは遺言による通常の相続と変わりません。「信託を使えば相続税が軽くなる」というのは誤解です。受益権は「みなし相続財産」として扱われ、各受益者が受益権を取得した際に相続税の申告・納税が必要です。
世代を重ねるごとに同じ財産に繰り返し相続税がかかる、これが現実です。
なお、信託設定費用も無視できません。専門家(司法書士・弁護士・税理士)への報酬は信託財産の評価額の0.8〜1.0%が目安で、信託財産が3,000万円の場合は最低38.5万円程度(税込)が必要です。不動産が含まれる場合は登記費用も別途発生します。
相続税の仕組みや課税のタイミングについては、国税庁の情報も参考になります。
国税庁:信託税制に関する手続き(信託に関する相続税・贈与税の課税概要)

後継ぎ遺贈型受益者連続信託が有効に機能する4つの活用場面

後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、どのような場面で特に力を発揮するのでしょうか?主なケースを具体的に見ていきましょう。
まず最もよくあるのが、再婚家庭で「後妻の生活を守りつつ、前妻の子にも確実に財産を渡したい」というケースです。遺言だけでは後妻が亡くなった後の財産の行方をコントロールできません。後継ぎ遺贈型受益者連続信託を使えば「→後妻→前妻の子」という順序での承継を法的に確定できます。
次に、子のいない夫婦のケースです。夫が亡くなると妻が相続し、妻が亡くなると妻側の兄弟姉妹が相続するのが一般的な流れです。夫の家系から財産が出て行ってしまう、と心配している方にとって、後継ぎ遺贈型受益者連続信託は「妻→夫の甥・姪」という流れを確定させる有効な手段です。
三つ目が、障がいのあるお子さんを抱える「亡き後問題」への対策です。親が第一受益者、障がいのある子が第二受益者、健常な兄弟が受託者として財産を管理するという設計が可能です。親が亡くなった後も、継続的に障がいのある子の生活費を信託財産から支える仕組みが作れます。これは遺言だけでは実現が難しい、信託ならではの機能です。
四つ目が、会社経営者の事業承継です。自社を「現経営者→長男(次期後継者)→孫(次々期後継者)」というように連続的に承継させながら、現経営者が指図権を持つことで生前は経営に関与し続けるという設計も可能です。
いずれのケースでも共通しているのは「承継を仕組みとして固定したい」というニーズです。

  • 💑 再婚家庭で前妻の子への確実な承継
  • 👫 子なし夫婦で自分の家系に財産を残す
  • 👨‍👩‍👦 障がい者の「親亡き後」問題への対応
  • 🏢 事業承継で複数世代の後継者を指定

後継ぎ遺贈型受益者連続信託の遺留分と受託者問題—見落としがちな2つのリスク

後継ぎ遺贈型受益者連続信託を設計する際に、多くの方が見落としがちな問題が2点あります。遺留分の問題と、受託者選びの問題です。
まず遺留分についてです。信託契約を結んでいても、遺留分の適用は原則として及ぶと考えられています。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に保障された、最低限の遺産の取り分です。具体的には、法定相続分の2分の1(直系尊属のみの場合は3分の1)が保障されています。
たとえば、全財産1,000万円を特定の長男だけに信託で承継させた場合、次男の遺留分(約250万円)が侵害されるとして、次男から遺留分侵害額請求を起こされる可能性があります。信託で設計したからといって遺留分の壁を超えることはできません。設計段階で、他の相続人の遺留分を確保できているかを必ず確認することが必要です。
次に受託者の問題です。後継ぎ遺贈型受益者連続信託は信託期間が長期にわたります。委託者と同世代の親族を受託者にすると、受託者が先に亡くなるリスクがあります。また、受託者と受益者が同一人物になった状態が1年間続くと信託は強制終了します(信託法第163条2号)。これを避けるため、第二受託者をあらかじめ指定しておくことや、信頼できる法人を受託者にする方法も検討に値します。
長期の信託には、それだけ慎重な設計が必要です。
東京弁護士会所属の弁護士が解説する、東京弁護士会所属・弁護士が解説:受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型信託)への遺留分の適用