使用貸借と賃貸借の違いを宅建で押さえる全知識
タダで貸しているだけなのに、相続が発生したら評価額が6,000万円も上がることがあります。
使用貸借と賃貸借の違いの基本:宅建で最初に押さえる定義
使用貸借とは、貸主と借主が合意し、借主が目的物を無償で使用・収益したあとに返還することを約束する契約です(民法593条)。一言でいえば「タダで借りる契約」です。対して賃貸借は、賃料などの対価を支払って目的物を使用・収益する契約であり、賃料の発生が最大の違いになります。
宅建試験では、この2つを比較する問題が過去に複数回出題されています。単に「有償か無償か」という入口の違いだけでなく、契約の成否・期間・解除・対抗要件・費用負担・相続といった各論点が横断的に問われます。
2020年4月施行の改正民法によって、使用貸借は「要物契約」から「諾成契約」へと変更されました。これ以前は、物の引渡しがあって初めて契約が成立するとされていましたが、改正後は当事者の合意の意思表示だけで契約が成立します。宅建試験でもこの改正点は狙われやすいため、「旧法=要物、新法=諾成」と確実にセットで記憶しておきましょう。
賃貸借も同じく諾成契約です。つまり現行民法のもとでは、使用貸借・賃貸借いずれも合意だけで成立するという点は共通しています。ただし、使用貸借では、借主が物を受け取る前であれば貸主はいつでも解除できます(ただし書面による使用貸借を除く)。
| 項目 | 使用貸借 | 賃貸借 |
|---|---|---|
| 対価 | 無償 | 有償(賃料) |
| 契約の種類 | 諾成契約(改正後) | 諾成契約 |
| 借地借家法の適用 | ❌ なし | ✅ あり |
| 存続期間の上限 | 規定なし | 最長50年 |
借地借家法が適用されないことは、不動産実務でも宅建試験でも特に重要です。賃貸借では借主が強力な保護を受けますが、使用貸借の借主はその保護の外に置かれています。これが、後述する対抗要件・解除・相続など多くの場面で「借主にとって不利」な結果を招く根本的な理由です。
使用貸借と賃貸借の違い:対抗要件と第三者への主張可否
宅建試験で繰り返し出題されるのが「対抗要件」の比較です。対抗要件とは、自分の権利を第三者に主張するための要件のことを指します。
賃貸借では、一定の対抗要件を備えることで第三者(たとえば目的物を買い受けた新所有者)に対しても権利を主張できます。具体的には、民法上の賃借権の登記、借地権の場合は借地上に建てた借主名義の建物の登記、建物賃貸借の場合は建物の引渡しがそれぞれ対抗要件にあたります。これらがあれば、大家が物件を第三者に売却しても「賃借権は続く」と主張できるのです。
一方、使用貸借には対抗手段が存在しません。これが賃貸借との最も実務的な差の一つです。
具体例を挙げます。AさんがBさんの建物を無償で借りていたとします。その後、BさんがCさんに建物を売却し登記も移転した場合、AさんはCさんに「私には借りる権利がある」と主張することができません。つまり、Cさんから「出て行ってほしい」と言われたら、AさんはそれをもってNoとは言えないのです。
賃貸借なら登記や引渡しがあれば対抗できます。つまり、建物の引渡しを受けた賃借人は、仮に大家が建物を第三者に売却しても居続けることができます。使用貸借の借主にはそのような保護が一切ないと覚えておく必要があります。
不動産実務の場面では、親が子に土地を無償で貸しているケースがよく見られます。その土地が第三者に渡ったとき、使用貸借の借主である子は法的に土地を使い続ける権利を主張できません。これは実務上のリスクとして、お客様への説明義務が発生する場面にもなりえます。
参考として、宅建過去問での出題事例が詳しくまとめられているページがあります。
過去問で対抗要件に関する使用貸借と賃貸借の比較問題が解説されています(1997年問8など)。
使用貸借と賃貸借の違い:解除・期間満了と借主の死亡時の処理
契約の終了に関しても、使用貸借と賃貸借では大きな違いがあります。宅建試験では特に「借主の死亡」と「期間満了時の更新」について狙われることが多いため、整理して理解しましょう。
まず「期間の更新」についてです。賃貸借では、存続期間が満了したあとも、借主が使用を継続していて貸主が異議を述べなければ、同一条件で契約が更新されたものと推定されます(民法619条)。法定更新が認められているわけです。しかし使用貸借では、期間が満了したら契約は終了します。期間満了後に借主が使い続けていても、賃貸借のような法定更新は適用されません。
次に「借主の死亡」についてです。これが最も試験に出やすい違いです。民法597条3項には「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」と明記されています。借主が亡くなれば、たとえ契約期間の定めがあっても、使用及び収益の目的が達成されていなくても、原則として使用貸借は即時終了します。相続人は使用貸借の借主としての地位を引き継ぐことができないのです。
賃貸借の場合はどうかというと、借主が亡くなっても契約は終了しません。相続人が借主としての地位を承継して、賃貸借契約は続きます。貸主が亡くなった場合も同様で、どちらの死亡でも賃貸借は相続の対象になります。使用貸借とは真逆の取扱いです。
また、貸主からの解除のしやすさも異なります。使用貸借において期間・目的ともに定めがない場合、貸主はいつでも契約を解除できます(民法598条2項)。これに対して賃貸借では、貸主からの一方的な解除は正当事由がなければ認められません。
- 使用貸借の終了事由①:定めた期間の満了
- 使用貸借の終了事由②:使用・収益の目的の達成(もしくは達成に足る期間の経過)
- 使用貸借の終了事由③:借主の死亡(賃貸借にはない規定)
使用貸借は借主が死亡すると終了する、が原則です。なお、貸主側の死亡によって使用貸借が終了するという規定はありません。貸主が亡くなった場合は、相続人が貸主の地位を引き継いで、使用貸借は継続されます。これも試験で問われる逆パターンなので注意が必要です。
使用貸借と賃貸借の違い:費用負担・担保責任と不動産実務での注意点
費用負担の違いは、不動産実務においても実際にトラブルになりやすい論点です。宅建試験でも2015年(平成27年)問3などで出題実績があります。
必要費とは、目的物を現状維持するために必要な費用のことです。雨漏りの修繕費や建物の保存・管理に必要な経費が典型例です。賃貸借では、借主が必要費を支出したときは貸主に対してその費用を直ちに償還請求することができます(民法608条1項)。必要費の負担者は本来「貸主」です。
ところが使用貸借では、借主が通常の必要費を負担しなければなりません(民法595条1項)。これはタダで借りているのだから維持費くらいは自分で払いなさいという考え方に基づきます。つまり賃貸借と使用貸借では必要費の負担先が逆になります。
有益費については、賃貸借・使用貸借ともに借主は貸主に対して償還請求が可能です(民法583条・608条2項)。有益費とは、目的物の価値を高めるために支出した費用のことで、たとえば建物に太陽光パネルを設置したような場合が該当します。支出額または増加額のいずれか低い方を、貸主の選択で償還してもらえます。
担保責任については、使用貸借の貸主は原則として契約不適合責任を負いません(民法596条)。これは無償で貸しているためです。ただし、貸主が不具合を知りながら借主に告げなかった場合(悪意の場合)は責任を負います。負担付使用貸借の場合は例外で、その負担の限度において売主と同じ担保責任を負います(民法551条2項準用)。
宅建過去問では「使用貸借でも担保責任を負う場合がある」という観点が問われています。「無償だから一切責任を負わない」は誤りです。この点を見落としてしまうことが多いため、注意が必要です。
| 費用の種類 | 使用貸借(負担者) | 賃貸借(負担者) |
|---|---|---|
| 通常の必要費 | 借主 | 貸主(借主が支出→直ちに償還請求可) |
| 有益費 | 貸主(終了時に償還) | 貸主(終了時に償還) |
| 担保責任 | 原則なし(悪意の場合あり) | あり |
実務では、親子間や兄弟間で使用貸借の形で不動産を貸しているケースが多く見られます。費用負担の取り決めが明確でないまま長年使用されると、修繕費をめぐるトラブルに発展することがあります。契約書の作成を促すことが不動産従事者としての重要なアドバイスになります。
賃貸借と使用貸借の費用負担のポイントを整理した参考ページです。
【宅建過去問】(平成27年問03)賃貸借と使用貸借の比較 – 過去問徹底!宅建試験合格情報
使用貸借が相続税評価に与える影響:不動産従事者が知っておくべき実務論点
これは宅建試験の試験範囲を少し超えた内容ですが、不動産従事者として絶対に知っておくべき実務知識です。使用貸借と賃貸借では、相続税の評価額が大きく変わります。
相続税の評価において、他者に貸している土地は「貸宅地」として評価されるため自用地より評価が下がります。その理由は、賃貸借では借主が借地借家法による借地権を持つため、貸主(地主)の権利が制限されるからです。たとえば土地の相続税評価額が1億円で借地権割合が60%の場合、貸宅地評価は「1億円×(1-60%)=4,000万円」となり、評価額が6,000万円も低くなります。
一方、使用貸借で土地を貸している場合、借主には借地権が発生しません。借地借家法の適用外だからです。そのため、使用貸借の土地は「自用地」として評価されます。評価額は1億円のまま。賃貸借と比べると6,000万円分もの差が生じる計算です。
また贈与税の扱いについても誤解が多いポイントです。使用貸借では地代・権利金を一切支払っていないのに「無償で土地を使わせてもらっている=経済的利益の贈与」として贈与税が課されるのではないかと思われがちです。しかし国税庁の取扱いでは、使用借権の価額は0円とされているため、贈与税はかかりません。
逆に注意が必要なのは「地代だけ支払う」ケースです。地代は払っているが権利金は払っていない場合、権利金に相当する金額を贈与されたとみなされて贈与税が課税される可能性があります。親子間で地代を設定するときは、税理士への相談がセットで必要です。
不動産従事者が使用貸借と賃貸借の税務的な違いを理解しておくことで、お客様から「親の土地に家を建てたいが、地代は払ったほうがいい?」と聞かれたときに適切な情報提供ができます。もちろん税務の最終判断は税理士の領域ですが、概要を把握していることが信頼構築につながります。
不動産従事者向けに相続税・使用貸借の評価方法を詳しく解説した月刊不動産の記事が参考になります。
Vol.30 親子間における不動産の使用貸借と相続税・贈与税|月刊不動産(全日本不動産協会)
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