欠損金の繰越は何年か、法人税の控除期限と要件を解説

欠損金の繰越は何年か、法人税の控除期限と要件を解説

帳簿を10年保存しないと、黒字になっても繰越欠損金が全額パーになります。

この記事の3ポイント
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繰越期間は最長10年

平成30年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金は10年間繰り越せます。ただし青色申告が前提条件です。

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控除できる金額は会社規模で変わる

資本金1億円以下の中小法人は課税所得の全額を控除できますが、1億円超の大法人は課税所得の50%が上限です。

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帳簿保存と青色申告が両方必要

欠損金発生年度の帳簿を10年間保存しないと繰越控除が認められません。白色申告では原則この制度を使えません。

欠損金の繰越とは何か、不動産法人が知っておくべき基本

不動産事業を法人で行っていると、物件取得初年度や大規模修繕を実施した年など、赤字が発生する場面は珍しくありません。そのような年度に生じた赤字(税務上の「欠損金」)を翌年度以降に持ち越し、将来の黒字と相殺して法人税を軽減できる制度が「欠損金の繰越控除」です。

仕組みを具体的に説明すると、たとえば今期に1,000万円の欠損金が生じたとします。翌期に800万円の黒字が出た場合、繰越欠損金を充当することで課税所得をゼロに圧縮できます。税率が約23%とすると、法人税約184万円の節税になる計算です。これは資金繰りにも直結する、規模の小さい不動産法人ほど使い倒すべき制度です。

ただし、この制度には3つの基本要件があります。

  • 🔵 青色申告の承認を受けていること:設立から3か月以内(または最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで)に「青色申告承認申請書」を税務署へ提出している必要があります。
  • 🔵 各事業年度で継続して確定申告書を提出していること:欠損金が発生した年度から繰越控除を適用する年度まで、申告を途切らせてはいけません。無申告の年度があると、その年度以降の繰越欠損金は使えなくなります。
  • 🔵 帳簿書類を10年間保存していること:欠損金発生年度の帳簿・決算書・領収書等を10年間保存することが必須です。帳簿を捨てると、繰越控除が否認されるリスクがあります。

これが基本です。特に「帳簿10年保存」は見落としがちな落とし穴で、後述のセクションで詳しく解説します。

不動産法人では設立初期に借入金の利息負担や減価償却費で赤字になるケースが多く、この繰越欠損金制度を知っているかどうかで、黒字転換後の税負担に数百万円単位の差が出ることがあります。つまり、設立直後から青色申告で帳簿をしっかり管理することが、長期的な節税の大前提です。

参考:欠損金の繰越控除の基本要件について(国税庁タックスアンサー

No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁

欠損金の繰越は何年できるか、10年の数え方と歴史的な改正

「欠損金の繰越は何年か」という問いへの直接の答えは、現行制度では最長10年間です。ただし、この年数は税制改正によって段階的に変化してきた経緯があるため、過去の欠損金を抱えている場合は注意が必要です。

欠損金発生年度 繰越できる期間
平成20年3月期以前(~H20/3) 7年間
平成20年4月期~平成30年3月期 9年間
平成30年4月1日以後開始の事業年度 10年間

現在(令和7年度)であれば、平成30年4月1日以後に開始した事業年度はすべて10年間の繰越が適用されます。設立が平成後半以降の法人は、実質的に全期間が10年対象です。

10年間の「数え方」も確認しておきましょう。たとえば3月決算の法人が令和6年3月期(令和5年4月1日~令和6年3月31日)に欠損金を発生させた場合、繰越できる最終年度は令和16年3月期(令和15年4月1日~令和16年3月31日)です。「発生した年度の翌事業年度から10年目まで」という起算点を間違えないようにしましょう。

10年間という期間は、一見すると余裕があるように思えます。しかし不動産業では、物件の空室長期化や市況悪化が重なると、黒字転換が遅れるケースがあります。期限切れまでに黒字が出なければ、繰越欠損金はそのまま失効します。10年という長い期間があることで油断しがちですが、税務上の期限管理は毎年の確定申告のタイミングで必ず行うべきです。

また、複数年にわたって欠損金が積み上がっている場合、古い年度の欠損金から優先して控除されるルールがあります。繰越期限の近い欠損金から消化される仕組みのため、計画的な決算管理が重要です。

欠損金の繰越控除の上限額、中小と大法人で異なる50%ルール

繰越欠損金は「繰越できる期間(10年)」と並んで、「控除できる金額の上限」も重要なポイントです。同じ10年間使えるとしても、1年間に控除できる金額に上限が設けられているケースがあります。

資本金1億円以下の中小法人(大規模法人の子会社等を除く)は、課税所得の全額を繰越欠損金で控除できます。たとえば当期の課税所得が3,000万円であれば、繰越欠損金が3,000万円以上あれば課税所得をゼロにすることが可能です。これが条件です。

一方、資本金1億円超の大法人は、控除上限が課税所得の50%に制限されています。課税所得が1億円の大法人であれば、繰越欠損金が5億円あっても、その年に控除できるのは5,000万円までということになります。

厳しいところですね。

ただし、不動産事業を行う法人の多くは資本金1億円以下の中小法人に該当します。中小法人では課税所得の全額を控除できるため、繰越欠損金を全額活用できるタイミングに黒字を集中させる戦略が取りやすいです。大規模な物件売却益が出る年度を狙って繰越欠損金を充当する、というような税務戦略は、事前に税理士と連携して立てることをお勧めします。

また、注意が必要なのは「大規模法人の子会社に該当するかどうか」の判定です。資本金が1億円以下でも、発行済み株式総数の50%超を資本金5億円以上の大法人に保有されている場合は、中小法人の扱いではなく50%ルールが適用されます。不動産グループ会社や親会社のある法人は、自社の株主構成を確認しておく必要があります。

参考:財務省による繰越欠損金控除制度の概要(PDF)

欠損金繰越控除制度の概要|財務省

欠損金の繰越控除を使えない落とし穴、帳簿保存と申告継続の注意点

繰越欠損金の制度は非常に有効ですが、要件を一つでも満たせなければ控除が全額認められないというシビアな側面があります。不動産法人でよく起きる落とし穴を3つ整理します。

落とし穴①:帳簿書類を途中で廃棄してしまうケース

欠損金が発生した事業年度の帳簿書類(総勘定元帳・仕訳帳・領収書・契約書等)は10年間保存が義務です。通常の帳簿保存義務は税法上7年間ですが、繰越欠損金を使う場合は10年間が要件となります。古い帳簿を「もう使わないだろう」と廃棄してしまうと、後から税務調査で指摘を受けた場合に繰越控除を否認されるリスクがあります。物件の契約書や修繕の見積書・領収書なども保存期間に含まれる点を忘れずに確認しましょう。

落とし穴②:白色申告のままにしているケース

白色申告では、欠損金の繰越控除は原則として利用できません。法人が青色申告承認申請書を提出していない場合、赤字の年度があっても翌年度以降に繰り越すことができず、その年度限りで損失は切り捨てられます。設立初期や法人成りのタイミングで申請を忘れていると、初年度の赤字が丸ごと無駄になります。これは痛いですね。

落とし穴③:1年でも確定申告を怠るケース

欠損金発生年度から繰越控除を適用する年度まで、毎年継続して青色申告書を提出していることが条件です。たとえば途中で申告を1年飛ばしてしまうと、その前年度以前に生じた欠損金の繰越が使えなくなります。事業が一時停止していた年度や、担当者の異動によって申告が遅れた年度がないかを必ず確認してください。

これら3つの落とし穴を回避するための最も確実な方法は、毎年継続して税理士に申告を委託し、帳簿管理と保存を一元化することです。特に不動産法人は物件ごとに多様な書類が発生するため、電子帳簿保存法に対応したクラウド会計ソフト(弥生やfreeeなど)を使うと、10年間の保存管理が格段に楽になります。

欠損金の繰越と繰戻し還付、不動産法人が使い分けるポイント

欠損金が生じたとき、実は「繰り越す」だけが選択肢ではありません。もう一つの制度として「欠損金の繰戻し還付」があります。これは意外ですね。

繰戻し還付とは、赤字が発生した年度の欠損金を前年度(直前1年間)に遡って相殺し、前年度に納付済みの法人税の一部を還付してもらう制度です。将来の節税ではなく、今すぐキャッシュが戻る点が最大の特徴です。

たとえば前年度に法人税を200万円納付しており、当年度に500万円の欠損金が発生した場合、一定の計算式に基づいて前年度の法人税の一部が還付されます。不動産事業で突発的な修繕費や空室長期化により赤字になった年に、過去に収めた税金が返ってくるのは資金繰り的に非常に有効です。

ただし、繰戻し還付には条件があります。

  • 🟡 前期および当期ともに青色申告書を提出していること
  • 🟡 当期の青色申告書を期限内に提出していること
  • 🟡 還付請求書を確定申告書と同時に提出すること

また、繰戻し還付は中小法人が対象の特例として再開されており、資本金1億円超の大法人は原則として利用できない点に注意が必要です。さらに、繰戻し還付を選択した場合、その欠損金の分は翌年度以降への繰越には使えなくなります。

繰越控除と繰戻し還付のどちらが得かは状況次第です。一般的には、翌期以降に大きな黒字が見込まれるなら繰越控除、資金繰りが厳しく今すぐキャッシュが欲しいなら繰戻し還付が有効です。不動産業では物件売却のタイミングなど大きな利益が発生する時期が予測しやすいことも多く、税理士と相談しながら最適な選択をするとよいでしょう。

参考:欠損金の繰戻し還付の仕組みと計算方法についての詳細

繰越欠損金とは?適用条件や繰越期限・税効果会計や繰戻し還付 – 小谷野税理士法人

不動産法人だからこそ知っておきたい、欠損金活用の独自戦略

不動産会社・不動産投資法人には、一般的な事業会社とは異なる欠損金の使われ方があります。ここでは検索上位記事にはあまり取り上げられていない、不動産法人特有の視点でまとめます。

減価償却費と繰越欠損金の二段構え

不動産法人の大きな特徴の一つが、物件の減価償却費による赤字です。特に中古物件の取得初年度は建物部分に大きな減価償却費が計上され、見かけ上の赤字が発生します。この税務上の赤字が繰越欠損金の原資になります。物件保有中は毎年減価償却で欠損金を積み上げ、物件を売却して大きな売却益が出たタイミングで繰越欠損金を充当するという二段構えの戦略が取れます。

つまり、減価償却と繰越欠損金はセットで管理するのが基本です。

M&Aによる繰越欠損金の引き継ぎは要注意

繰越欠損金を多く持つ不動産会社を合併・買収(M&A)した場合、相手法人の繰越欠損金を引き継げるケースがあります。しかし、税法上は「租税回避目的」と判断されると繰越欠損金の引き継ぎが否認されるリスクがあります。適格合併の要件(従業員の雇用継続・事業の継続・支配関係5年超など)を満たさない限り、M&Aで取得した繰越欠損金は使えません。「赤字会社を買えば節税になる」という単純な発想で動くと、後から多額の追徴課税を受けるリスクがあります。

法人成りのときに個人の赤字を持ち込めない

個人で不動産投資を行っていた事業者が法人成りする際に誤解しがちなのが、「個人の繰越損失を法人に引き継げる」という思い込みです。個人事業主の損失は新たに設立した法人には引き継げません。法人と個人は別の納税主体のためです。個人の確定申告で繰り越してきた損失は、法人化した時点で精算されます。法人成りのタイミングを決める際には、個人の繰越損失の残高と将来の黒字見込みを考慮してから判断することが重要です。

これら不動産法人特有のポイントを踏まえると、繰越欠損金の管理は単なる帳簿上の数字管理ではなく、会社の経営戦略そのものに直結していることが分かります。毎年の決算前に税理士と一緒に欠損金の残高・期限・今後の見込み利益を整理する習慣を持つことが、長期的な節税の鍵になります。

参考:M&Aと繰越欠損金の引き継ぎ要件についての詳細

M&Aで繰越欠損金は節税に使える?引継ぎの要件を会計士が解説|M&A SUCCEED