みなし役員とは国税庁が定める役員認定の基準と不動産会社への影響
同族会社に勤める家族は、登記上「役員でなくても」税務上は役員として扱われ、給与が全額損金にならない場合があります。
みなし役員とは何か:国税庁が定める法人税法上の定義
みなし役員とは、会社の登記簿に役員として記載されていない人物であっても、税務上は役員として扱われる人物のことを指します。根拠となるのは法人税法第2条第15号であり、国税庁はこの条文に基づいて「役員」の範囲を法的に定義しています。
通常、私たちが「役員」と聞くと、取締役・監査役・執行役といった商法・会社法上の役員を思い浮かべるでしょう。しかし税務の世界では、それだけでは終わりません。
法人税法上の役員には、以下の3つのカテゴリーが含まれます。
- 📌 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人(会社法・各種法人法上の役員)
- 📌 同族会社の使用人のうち、一定の持株要件を満たす株主で、かつ法人の経営に従事している者(みなし役員その1)
- 📌 法人の使用人以外の者で、法人の経営に従事している者(みなし役員その2)
つまり「みなし役員」ということですね。登記上の肩書きではなく、実質的な関与の状況と持株比率という2つの軸で判定されます。
不動産業界では、オーナー社長の配偶者が「経理担当の従業員」として勤務しているケースが非常に多く見られます。しかしこの配偶者が一定以上の株式を保有しており、かつ経営的な業務に携わっているとみなされれば、国税庁の基準によりみなし役員に該当してしまいます。
これが原則です。「登記されていないから安心」という判断は、税務調査では通用しません。
参考:法人税法第2条(定義)- 国税庁e-Govリンク、国税庁タックスアンサー「役員の範囲」
国税庁タックスアンサー No.5200「役員の範囲」|役員とみなし役員の定義が公式にまとめられています
みなし役員の判定基準:持株比率と経営従事の2つの要件
みなし役員に該当するかどうかは、大きく2つの要件を同時に満たすかどうかで判定されます。この2要件を正確に理解することが、不動産会社のオーナーや経理担当者にとって欠かせない知識です。
要件①:持株比率(同族株主グループの判定)
まず確認するのは、その人物が「同族株主グループ」に属しているかどうかです。具体的には、法人税法施行令第71条に基づき、次のような判定が行われます。
- 📊 その使用人が属する「株主グループ」(本人・配偶者・直系血族・兄弟姉妹などの同族関係者を含むグループ)の持株割合が、上位3グループの合計で50%超であること
- 📊 その使用人が属するグループの持株割合が10%超であること
- 📊 その使用人本人とその配偶者等の持株割合の合計が5%超であること
持株比率の計算は個人単位ではなくグループ単位で行われます。これは意外ですね。たとえばオーナー社長が60%の株式を持ち、その配偶者が1%しか持っていなくても、配偶者はオーナー社長と同じ「株主グループ」に分類されるため、グループとして61%の保有となります。
要件②:経営への従事
持株要件を満たすだけでは、みなし役員にはなりません。加えて「法人の経営に従事している」という実態が必要です。
経営への従事とは、具体的には次のような業務を指すとされています。
- 💼 会社の重要事項の意思決定への参加(採用・契約・物件取得判断など)
- 💼 社内の業務全般を統括・管理する立場での業務
- 💼 他の従業員への指示・命令・評価を行う業務
つまり「名目は事務スタッフでも、実際には社長の補佐として経営判断に関与している」という状態が該当します。不動産仲介・管理会社では、家族が現場の実務から意思決定まで関与するケースが珍しくなく、この要件に該当しやすい環境といえます。
2つの要件が条件です。どちらか一方だけでは、みなし役員にはなりません。
国税庁|法人税基本通達2-1(役員の意義)|みなし役員の判定に関する通達が詳細に記載されています
みなし役員と認定された場合の税務上のリスクと損金不算入の仕組み
みなし役員と判定されると、その人物への給与は「役員給与」として扱われます。これが不動産会社の法人税コストに直結するリスクです。
役員給与が損金(法人の費用)として認められるためには、法人税法第34条に基づき、次のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 🔴 定期同額給与:毎月同額で支払われる給与(期中の増減は原則不可)
- 🔴 事前確定届出給与:税務署に届出を出した上で、あらかじめ決めた時期・金額で支払う給与
- 🔴 業績連動給与:上場会社等に限定される特別な給与形態
問題になりやすいのは「定期同額給与」の要件です。従業員であれば月の途中で昇給させたり、賞与を自由なタイミングで支払っても損金算入されます。しかしみなし役員となった瞬間、同じ行為が「損金不算入」となり、法人税の課税所得が増えてしまいます。
痛いですね。たとえば、みなし役員に認定された配偶者に対して期中に月給を20万円から30万円に増額していた場合、増額後の給与のうち要件を満たさない部分(差額10万円×残り月数分)が損金不算入となり、丸ごと法人の利益として課税対象になります。
さらに深刻なのは、税務調査で「過去にさかのぼって」みなし役員と認定されるケースです。この場合、複数年分の給与が一度に損金不算入と判定され、追徴税額と加算税・延滞税が一度に発生します。不動産会社では役員報酬の設計を誤ると、数百万円規模の追徴課税に発展した事例も存在します。
結論は「早期の整備」です。現状の給与設計が適切かどうか、顧問税理士と今期の決算前に確認することが最も確実な対策です。
国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後に開始する事業年度)」|損金算入の要件が詳しく解説されています
不動産管理会社・仲介会社で特に注意すべきみなし役員の典型パターン
不動産業界は、家族経営・同族会社の割合が他業種と比較しても高い傾向にあります。国税庁の統計データでは、中小法人の約70%が同族会社に該当するとされており、不動産管理業・仲介業においてもこの傾向は顕著です。
典型的なみなし役員の発生パターンを以下に整理します。
パターン①:オーナー社長の配偶者が「事務担当社員」として勤務
最も多いケースです。配偶者が株式の5%超を保有しており(または夫婦合算で5%超)、かつ日常的に取引先との連絡・賃料収納管理・スタッフ管理などを行っている場合は、みなし役員の2要件を同時に満たす可能性が高くなります。
パターン②:オーナーの子(息子・娘)が現場マネージャーとして勤務
不動産管理会社において、オーナーの子が「現場リーダー」「支店長代理」などの肩書きで実態上の管理業務を行っているケース。株主グループの持株比率が高ければ、みなし役員に該当します。
パターン③:名目上「顧問」として業務に従事する親族
登記上は何の役職もなく、給与でも報酬でもなく「顧問料」の名目で支払いをしているケース。しかし実態として経営判断に関与していれば、使用人以外の者として法人税法上のみなし役員になり得ます。
これは使えそうです。逆に言えば、現状のパターンを整理して「みなし役員に該当しない形」に業務分掌を明確化することで、税務リスクを下げることができます。
不動産会社では賃貸管理・売買仲介・建物管理など業務ラインが複数あり、家族がそれぞれ異なる業務に関与していることも珍しくありません。どの家族が・どの業務に・どの程度関与しているかを文書化(業務分掌規程・職務権限規程の整備)しておくことが、税務調査での説明力を高める重要な対策となります。
国税庁|同族会社の判定に関する情報|同族会社の定義と判定方法の詳細が確認できます
みなし役員の問題を回避するための実務的な対策と税理士への相談ポイント
みなし役員の問題は「知らなかった」では済まされない税務リスクです。ただし、適切な対策を取れば回避・軽減できます。ここでは不動産会社の実務に即した対策を整理します。
対策①:該当者を正式に役員として登記する
最もシンプルな解決策です。みなし役員に該当するリスクがある人物を、正式に会社の役員(取締役等)として登記し、定期同額給与として報酬を設定します。これにより税務上の扱いが明確になり、損金算入の要件を正面から満たすことができます。
ただし正式な役員登記を行うと、社会保険の扱いが変わるケースや、役員報酬の変更に制限がかかる(事業年度開始から3ヶ月以内の変更しか認められない)点に注意が必要です。
対策②:業務内容を「経営従事」に当たらない形に整備する
持株要件を変えることが難しい場合でも、「経営への従事」という要件を満たさなければ、みなし役員には該当しません。具体的には業務分掌規程を整備し、対象者の業務が「定型的な事務作業」であることを書面で明確化します。
意思決定への関与を排除することが条件です。たとえば採用・契約・業者選定などの決定権を持たせず、あくまで補助的業務に限定することが有効です。
対策③:株式の保有比率を見直す
長期的な対策として、対象者の株式保有を5%以下に調整することも選択肢となります。ただし株式の異動には贈与税・譲渡所得税などの問題が生じるため、単独では判断せず必ず税理士・司法書士と連携して進める必要があります。
税理士への相談ポイント
みなし役員の問題は、判定要件が複合的であり、かつ過去の税務処理にも影響するため、一般的な経理担当者が単独で判断するには難易度が高い分野です。以下の3点を整理した上で税理士に相談すると、スムーズに診断を受けられます。
- ✅ 家族・親族の現在の株式保有比率(正確な数字)
- ✅ 対象者の具体的な業務内容(日々どのような業務を行っているか)
- ✅ 現在の給与形態(月額・増減の有無・賞与の支払いタイミング)
不動産会社の税務に精通した顧問税理士と年に1回はこの確認を行う体制を整えることが、長期的なリスク管理として最も実効性が高い対策です。
国税庁タックスアンサー No.5209「役員給与の損金不算入」|役員給与が損金に算入されないケースの具体的説明が確認できます