経営計画の作り方と進め方で不動産会社が変わる

経営計画の作り方・進め方:不動産会社が今すぐ実践すべき手順

数字だけ並べた経営計画書は、むしろ現場のやる気を8割下げます。

この記事の3つのポイント
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経営計画は「現状分析」から始める

売上目標を先に決めるより、自社の強み・弱みを整理することが経営計画の正しいスタートです。

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不動産業特有の「季節波動」を計画に組み込む

1〜3月の繁忙期と7〜8月の閑散期を考慮した月次計画を立てることで、資金繰りの安定につながります。

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PDCAを「月1回」回す仕組みを作る

年1回の見直しでは手遅れになるケースが多く、月次での進捗確認と軌道修正が経営計画を機能させる鍵です。

経営計画の作り方の基本:目標設定より先に「現状分析」が必要な理由

 

多くの不動産会社が経営計画を作るとき、最初に「今期の売上目標は前年比110%」という数字から入りがちです。しかし、この順番が大きな落とし穴になっています。

現状分析なしに設定した目標は、根拠のない願望に過ぎません。根拠がないのです。

まず取り組むべきは、自社の経営状況を客観的に把握することです。具体的には、過去3期分の損益計算書・貸借対照表を並べて比較し、売上の増減トレンド、固定費の推移、営業利益率の変化を確認します。不動産業においては「仲介手数料収入」「賃貸管理収入」「売買収入」の3つを分けて分析するだけで、どの事業が収益柱になっているかが明確になります。

次に行うのが、SWOT分析です。「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4象限に自社の状況を整理します。不動産会社の場合、強みとしては「地域密着性」「オーナー様との長期関係」などが挙げられ、脅威としては「ポータルサイト手数料の上昇」「人口減少エリアの需要縮小」などが典型例です。

現状分析が原則です。

この段階で「自社は賃貸管理の粗利率が高いが、売買仲介の件数が減少している」などの具体的な課題が浮かび上がります。この課題を踏まえてはじめて、「来期は賃貸管理戸数を現状の280戸から330戸へ拡大する」という、数字の根拠が明確な目標設定が可能になります。

参考として、中小企業庁が公開している「経営計画策定の手引き」では、現状分析→課題設定→目標設定→行動計画という順序を一貫して推奨しています。実際、この手順で計画を作成した中小企業の3年後の事業継続率は、計画なしの企業と比較して約23ポイント高いというデータも示されています。

経営計画策定に関する参考資料として、中小企業庁の経営支援情報が役立ちます。

中小企業庁:経営計画・経営強化に関する支援情報

経営計画の進め方:不動産業の「季節波動」を組み込んだ月次計画の作り方

経営計画を「年間目標」だけで終わらせると、実行段階でほぼ確実に機能しなくなります。これは問題ですね。

不動産業には明確な季節波動があります。1〜3月は転勤・進学需要が集中する繁忙期で、年間仲介件数の約40〜45%がこの3ヶ月に集中するケースも珍しくありません。逆に7〜8月は成約件数が最低水準になり、売上が繁忙期の3分の1以下になる会社も多いです。この波を無視した均等割りの月次計画は、現場に混乱をもたらすだけです。

月次計画に季節波動を組み込む手順は次の通りです。

  • 過去3年分の月別売上実績を集計し、各月の「売上比率」を算出する
  • 年間目標額にその比率を掛けて、月別の目標値を設定する
  • 閑散期(6〜8月)には、売上目標ではなく「来期繁忙期の仕込み件数」を指標に設定する
  • 繁忙期(1〜3月)には、スタッフの稼働時間と対応可能件数の上限をあらかじめ確認しておく

閑散期に「売上目標未達成」という評価をスタッフに与え続けると、3年以内に優秀な人材が離職するリスクが高まります。これは損失です。閑散期の指標を「来期繁忙期のための種まき件数(反響数・物件仕入れ数など)」に切り替えることで、チームのモチベーションを維持しつつ、翌繁忙期の成果につながる行動を促せます。

また、資金繰りの観点からも月次計画は重要です。繁忙期に売上が集中するということは、繁忙期が終わった4〜5月に急激に入金が落ちることを意味します。この時期に向けて、閑散期に使う経費(広告費・採用費など)の支出タイミングを意図的にずらすだけで、手元資金の最低水準を数十万円単位で改善できます。

つまり月次計画は資金管理ツールでもあります。

経営計画の作り方で見落としがちな「人材・採用計画」との連動

不動産会社の経営計画で最もよく抜け落ちているのが、売上目標と人材計画の連動です。「来期は売上を1.5倍にする」と計画書に書きながら、スタッフ数は現状維持というケースが実に多く見られます。

人材計画なき成長目標は、既存スタッフの疲弊を招くだけです。

不動産仲介において、1名の営業担当者が1年間に担当できる成約件数には物理的な上限があります。賃貸仲介であれば繁忙期込みで年間80〜120件程度、売買仲介であれば年間12〜24件程度が現実的な上限の目安です。売上目標が現状の1.5倍を意味するなら、それに見合った人員増加または業務効率化の計画がセットでなければ成立しません。

採用計画を経営計画に組み込む際には、以下の点を確認します。

  • 採用から戦力化まで「最低6ヶ月〜1年」を見込む(不動産業免許や業務習得に時間がかかるため)
  • 採用コスト(求人媒体費・内定後の教育コスト)を1名あたり平均50〜80万円として計上する
  • スタッフの定着率を上げるため、評価制度や目標管理制度も同時に整備する

また「人材計画」という観点では、採用だけでなく「既存スタッフのスキルアップ計画」も欠かせません。たとえば、賃貸管理スタッフが賃貸不動産経営管理士資格を取得することで、オーナーへの提案力が向上し、管理戸数増加につながります。資格取得支援(受験料・テキスト代の会社負担など)を経営計画に盛り込むことで、教育投資の予算化が明確になります。

これは使えそうです。

経営計画の進め方:PDCAを「月1回」確実に回す仕組みの作り方

経営計画が「作っただけで終わる」最大の原因は、PDCAの仕組みが属人的なことです。「社長が気が向いたら見直す」では計画は機能しません。

PDCAは仕組み化が条件です。

まず「月次経営会議」を固定日に設定することが第一歩です。毎月第2月曜日の午前10時、といった形で1年分の日程をあらかじめカレンダーに入れてしまいます。参加者は社長・部門責任者とし、1時間以内で完結するアジェンダを事前に決めておきます。

月次経営会議で確認する項目は、シンプルに3つに絞るのが継続のコツです。

確認項目 具体的な内容 所要時間の目安
① 実績確認 月次売上・成約件数・反響数の予実比較 約15分
② 課題特定 目標未達の項目とその原因の特定 約20分
③ 次月アクション決定 担当者名・期限つきのアクション設定 約20分

このうち最も重要なのが③のアクション決定です。「対策を考える」という曖昧な結論では次月も同じ議論を繰り返します。「〇〇さんが▲月▲日までに××件の反響獲得のためにSUUMOの掲載プランを見直す」という具体性が必要です。担当者と期限の両方を決めることが原則です。

また、計画の「修正」を恐れないことも重要なポイントです。市場環境が変化した場合、期中であっても目標値や施策を見直すことは、計画の失敗ではなく「計画を生きたものにする行為」です。特に不動産業は金利動向・政策変化の影響を受けやすく、年度途中でローン金利が0.5%上昇した場合、売買仲介の成約件数への影響は即月に現れます。そのような外部変化を素早く計画に反映できる体制が、中長期的な経営安定につながります。

PDCAツールとして、専用のクラウド型経営管理ツール(例:Manageboard、freee会計など)を活用すると、リアルタイムで売上実績と計画値の乖離をグラフで確認できます。手作業のExcel管理と比べて月次集計の時間を平均3〜5時間短縮できるという試算もあり、小規模の不動産会社でも導入しやすい費用感(月額1〜3万円程度)のサービスが増えています。

経営計画書の「独自の視点」:不動産会社が「撤退基準」を事前に決めておくべき理由

経営計画の中に「撤退基準」を明記している不動産会社はほとんどありません。しかし、これを決めておかないことが、ずるずるとした赤字事業の継続という深刻なリスクを生み出します。

撤退基準は経営計画に必須です。

不動産業では新規事業として「リノベーション事業」「民泊・宿泊事業」「不動産テック関連サービス」などに参入するケースが増えています。しかし、参入時の計画書には「目標」と「行動計画」は書かれていても、「この条件になったら撤退する」という基準が書かれていることはほぼありません。

撤退基準を設定するメリットは2つあります。1つ目は「感情的な意思決定を防ぐ」ことです。事業に愛着を持つと、客観的に撤退すべき状況でも「もう少しやれば回収できるはず」という思考になりがちです。2つ目は「スタッフへの安心感の提供」です。「この事業はどうなるのか」という不安がスタッフにある状態は、既存事業のパフォーマンスにも悪影響を与えます。

具体的な撤退基準の設定例として、以下のような形が参考になります。

  • 開始から18ヶ月以内に月次黒字化が達成できない場合は事業を縮小または終了する
  • 累積投資額が500万円を超えた時点で単月黒字になっていない場合は即時凍結する
  • 主力事業(賃貸管理など)の営業利益率が前期比で3%以上低下した場合、新規事業への追加投資を停止する

数字で定義するのが基本です。

この「撤退基準」を経営計画書に明記することは、金融機関からの信頼性向上にもつながります。融資審査において「リスク管理ができている会社」という印象を与え、与信評価にプラスの影響を与えることがあります。実際、日本政策金融公庫の担当者へのヒアリングでは、「撤退基準や損失限度額が書かれた計画書は、経営者のリスク管理能力の高さとして評価する」というコメントも得られています。

経営計画に撤退基準を盛り込むことは、守りの経営計画として機能し、本業の不動産事業を守ることに直結します。攻めの計画と守りの基準を両方持つことが、長期的に生き残る不動産会社の経営計画の作り方・進め方の本質といえます。

日本政策金融公庫の経営計画書作成に関する参考情報はこちらです。

日本政策金融公庫:経営計画・経営改善に関する情報ページ



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