電子記録債権の仕訳例と勘定科目を宅建事業者向けに解説

電子記録債権の仕訳・例を場面ごとに正しく理解する

でんさい割引をしても、取消しはほぼできません。

📋 この記事の3つのポイント
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勘定科目は「電子記録債権」一択

売掛金とは別に区分掲記が必要。発生・譲渡・決済の3段階で仕訳パターンが変わります。

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割引・譲渡で「電子記録債権売却損」が発生

期日前に現金化する際は、差額を「電子記録債権売却損」として損失計上する必要があります。

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2027年3月末で紙の手形は実質廃止

政府方針により、宅建事業者も電子記録債権への移行が避けられない局面を迎えています。

電子記録債権(でんさい)とは何か|宅建事業者が知るべき基本

 

電子記録債権とは、電子債権記録機関(でんさいネット)の記録原簿に登録することで効力が生じる金銭債権のことです。手形や売掛金と似ていますが、紙を一切使わない点が大きく異なります。2008年12月に電子記録債権法が施行されて以来、特に中小企業の資金調達を円滑化する手段として普及が加速してきました。

宅建事業者にとってこの制度が身近になる理由は明確です。リフォーム業者・管理業者・仲介会社との間で発生する工事代金や業務委託費など、掛け払いで処理する取引が少なくないからです。こうした取引において手形に代わる決済手段として、でんさいの活用が現実的な選択肢となっています。

従来の手形と比べたときの最大の違いは3点あります。まず、発行・受取に物理的な手続きが不要な点。紙の手形のように郵送も保管も必要ありません。次に、分割譲渡が可能な点。1,000万円の電子記録債権を500万円ずつ2社に譲渡することもできます。最後に、印紙税が課税されない点です。

印紙税の節約は金額によっては無視できません。たとえば、額面200万円超400万円以下の手形には400円の印紙税が必要ですが、電子記録債権ならゼロ円です。手形を多用してきた事業者ほど、移行によるコスト削減効果が大きいということですね。

なお、でんさいを利用するには取引銀行への事前申込と審査が必要です。すぐに使えるわけではない点を覚えておけばOKです。

参考:でんさいネットによる電子記録債権の制度概要

でんさいネット「電子記録債権とは」(全銀電子債権ネットワーク)

電子記録債権の発生時の仕訳例|債権者と債務者で仕訳が違う

電子記録債権の仕訳は、債権者(受け取る側)と債務者(支払う側)で使う勘定科目がまったく異なります。これが基本中の基本です。

まず、宅建事業者がリフォーム費用200万円を管理物件オーナーに請求する場面を想定してみましょう。電子記録債権で受け取った場合、債権者(請求する側=宅建事業者)の仕訳は次の2ステップで行います。

【Step 1:商品・サービス代金の売上計上】

借方 金額 貸方 金額
売掛金 2,000,000円 売上 2,000,000円

【Step 2:売掛金→電子記録債権への振替】

借方 金額 貸方 金額
電子記録債権 2,000,000円 売掛金 2,000,000円

つまり「売掛金が電子記録債権に化ける」というイメージです。これが原則です。

一方、債務者(支払う側)の仕訳は以下のとおりです。

【Step 1:仕入・費用の計上】

借方 金額 貸方 金額
仕入(または外注費等) 2,000,000円 買掛金 2,000,000円

【Step 2:買掛金→電子記録債務への振替】

借方 金額 貸方 金額
買掛金 2,000,000円 電子記録債務 2,000,000円

受け取る側は「電子記録債権」(資産)、支払う側は「電子記録債務」(負債)。この対応関係は絶対に混同しないようにしましょう。

なお、貸借対照表の表示ルールとして、企業会計基準委員会の実務対応報告第27号では、「売掛金や買掛金に係る取引に関しては電子記録債権を売掛金とは区別して掲記する」と定められています。金額的に重要性が乏しい場合のみ、受取手形に含めて表示することが認められています。

参考:企業会計基準委員会が公表する実務対応報告(電子記録債権の会計処理ルール)

電子記録債権に係る会計処理及び表示についての実務上の取扱い(実務対応報告第27号)

電子記録債権の決済時の仕訳例|自動引落しで消滅する流れ

支払期日が到来すると、電子記録債権は自動的に消滅します。これは手形の取立のように金融機関へ持参する手間がない点で、でんさいの大きなメリットといえます。

先ほどの200万円の例で、決済時の仕訳を確認しましょう。

【債権者(受け取る側)の決済仕訳】

借方 金額 貸方 金額
当座預金(または普通預金) 2,000,000円 電子記録債権 2,000,000円

【債務者(支払う側)の決済仕訳】

借方 金額 貸方 金額
電子記録債務 2,000,000円 当座預金(または普通預金) 2,000,000円

支払期日当日に口座間で自動決済が行われるため、双方が別々に処理する必要があります。入金確認後に仕訳を切るのが実務上の流れです。

ここで注意が必要なのは、口座の種類についてです。でんさいの決済は原則として当座預金口座が使われるケースが多いですが、取引銀行の設定によっては普通預金口座が使われる場合もあります。決済口座の種類は事前に取引銀行へ確認しておくことが条件です。

また、電子記録債権の支払等記録は、支払いが完了するとでんさいネットに自動で記録されます。これにより「支払った・支払っていない」の水掛け論が生じる可能性がゼロになります。

宅建事業者が管理委託料や仲介手数料の回収に電子記録債権を使う場面では、この自動決済の確実性が資金繰り管理を格段に楽にします。支払期日にカレンダーを見ながら入金を気にする必要がなくなるということですね。

参考:でんさいネット公式の会計処理FAQ

でんさいネット「電子記録債権の会計処理について教えてください。」

電子記録債権の譲渡・割引の仕訳例|売却損の処理を見落とさない

電子記録債権のうち、手形で言う「裏書譲渡」や「手形割引」に相当する処理が「譲渡」です。支払期日前に現金が必要なときに活用でき、資金繰り改善の有力な手段になります。

譲渡(裏書相当)の仕訳例 として、200万円の電子記録債権のうち70万円分を買掛金の支払いに充てるケースを見てみましょう。

借方 金額 貸方 金額
買掛金 700,000円 電子記録債権 700,000円

シンプルな振替仕訳で完了します。これが問題ないんでしょう? はい、その通りです。手形の裏書と異なり、保証記録の有無によって処理が変わる点は実務担当者が注意すべき点ですが、通常の取引では上記の仕訳で対応できます。

次に割引(期日前現金化)の仕訳例です。残り130万円の電子記録債権を銀行に割引に出し、割引料10万円を差し引いた120万円が当座預金に入金された場合は、以下のようになります。

借方 金額 貸方 金額
当座預金 1,200,000円 電子記録債権 1,300,000円
電子記録債権売却損 100,000円

ここで登場する「電子記録債権売却損」という勘定科目を見落とすと、帳簿が10万円ずれます。痛いですね。この差額は損益計算書の営業外費用に計上されるため、決算書の見た目にも影響します。

割引料の水準は金融機関や市場金利によって異なりますが、おおよそ年率1〜3%程度が目安です。200万円の電子記録債権を支払期日90日前に割引した場合、割引料は概算で約5,000〜15,000円前後になります。小さな金額に見えますが、毎月の取引量が多い事業者では年間で数十万円規模になることもあります。

なお、一度割引を申し込むと基本的に中途解約(買い戻し)はできません。これは事前に理解しておく必要があります。

電子記録債権と売掛金・受取手形の仕訳の違い|宅建実務での混同リスク

宅建事業者の経理現場でよく起きる混乱が、「電子記録債権を売掛金と同じ扱いにしてしまう」ことです。結論から言えば、それは誤りです。

企業会計基準委員会の実務対応報告第27号では、電子記録債権は売掛金や受取手形とは別に区分掲記することが求められています。たとえば貸借対照表の「流動資産」の部に、「受取手形」「売掛金」と並んで「電子記録債権」という独立した科目が立つのが正しい表示です。

【勘定科目の分類まとめ】

債権の種類 勘定科目 貸借対照表の区分
一般的な売掛債権 売掛金 流動資産
紙の手形による債権 受取手形 流動資産
電子記録による債権 電子記録債権 流動資産
電子記録による債務 電子記録債務 流動負債

例外が1つあります。電子記録債権の金額が重要性に乏しい場合(例:全体の取引額に対してごく少額である場合)は、受取手形に含めて表示することも認められています。これは条件が限定的な例外です。

また、営業取引(商品・サービスの売買)以外の取引で電子記録債権が発生した場合には「営業外電子記録債権」として区別する必要があります。たとえば不動産の売買(固定資産の売却)に際して電子記録債権が発生した場合は、この営業外の科目を使うことになります。宅建事業者が売買仲介だけでなく自社物件を売却するケースでは特に注意が必要な点です。

なお、割引残高や譲渡残高は財務諸表の注記事項として開示が求められる場合もあります。これは手形と同様の扱いで、対外的な信用力に影響するため経営者も把握しておきたい情報です。

宅建事業者が今すぐ確認すべき|手形廃止後のでんさい移行と経理対応の実務

政府の成長戦略実行計画(2021年6月)に基づき、紙の約束手形は2027年3月末をもって実質廃止される方針が示されています。全国銀行協会も「2026年度末までに手形・小切手の交換枚数をゼロにする」という自主行動計画を公表済みです。

これは宅建事業者にとっても対岸の火事ではありません。工事会社・管理会社・取引業者との決済で手形を使っている場合、遅くとも2026年度中に電子記録債権または振込への切り替えを完了させる必要があります。

移行に際して実務上で押さえておきたいポイントは3つあります。

まず取引先の対応状況を確認すること。でんさいは取引先も同じでんさいネットに加入していなければ利用できません。取引先が未加入の場合は振込や売掛金での対応になります。これを確認せずに自社だけ準備しても意味がありません。

次に会計システムの対応状況を確認すること。勘定科目に「電子記録債権」「電子記録債務」「電子記録債権売却損」が設定されていない古いシステムを使っている場合は、科目のカスタマイズ設定が必要です。弥生会計・マネーフォワードクラウド会計・freeeなどの主要クラウド会計ソフトはいずれも対応済みですが、設定確認は1度行っておくのが確実です。

最後に経理担当者への研修と社内マニュアルの整備です。でんさい移行後は、今まで手形台帳で管理していた発生・譲渡・決済の記録がシステム上に移ります。紙ベースの管理に慣れている担当者には一定のトレーニングが必要です。

手形廃止とでんさい移行は、一見すると経理部門だけの問題のように思えます。しかし実際には資金繰り計画・取引先との関係・会計システム整備まで影響が及ぶ、事業全体に関わる課題です。早めに準備するほど対応コストは小さくなります。

参考:約束手形廃止に関する全国銀行協会の公式方針

全国銀行協会「2026年の手形・小切手の全面電子化へ」(PDF)

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