相続した株式の売却と税金を正しく理解して節税する方法

相続した株式の売却にかかる税金の仕組みと節税の全知識

特定口座(源泉徴収あり)で売っても、節税の特例を使うには確定申告が必須です。

📋 この記事の3つのポイント
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売却益には20.315%の税金が発生

相続した株式を売却して利益が出ると、相続税とは別に譲渡所得税(所得税+住民税)が合計20.315%かかります。取得費は被相続人の購入価格を引き継ぎます。

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3年10ヶ月以内の売却で「取得費加算の特例」が使える

相続税を支払った方は、相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を大幅に圧縮できます。

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非上場株式を発行会社に売ると高税率になる場合がある

非上場株式を発行会社に買い取ってもらうと「みなし配当課税」が発生し、最大55%の総合課税になることがあります。届出書の提出で回避できる特例もあります。

相続した株式の売却で発生する税金の種類と税率

相続した株式を売って利益が出ると、相続税とは別にもう一本、税金が課されます。これを知らずに「相続税を払ったから終わり」と思っていると、翌年の確定申告期限(翌年3月15日)に慌てることになります。

売却益(譲渡所得)には、以下3種類の税金が合計20.315%の税率でかかります。

税金の種類 税率
所得税 15%
復興特別所得税(所得税額の2.1%) 0.315%
住民税 5%
合計 20.315%

たとえば株式の売却益が500万円だった場合、約101万円が税金として引かれる計算になります。これは500mlペットボトルに例えると、コップ1杯分(約100ml)を毎回持っていかれるイメージです。

税金の計算式はシンプルです。

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用

ここで注意したいのが「取得費」の扱いです。相続した株式の取得費は、亡くなった方(被相続人)がその株を購入したときの価格をそのまま引き継ぎます。相続した時点の時価ではない点が重要です。

取得費が不明な場合は、売却価格の5%をみなし取得費として使うことができます。ただし、被相続人が何十年も前に低価格で購入した株式の場合、5%ルールを使うと課税対象が大きく膨らむケースがほとんどです。まずは証券会社の取引報告書や顧客勘定元帳で元の購入価格を確認することを最優先にしましょう。

取得費不明の確認方法として、国税庁では以下の手順を案内しています。

国税庁「上場株式等の取得価額の確認方法」(PDF):取得費の調べ方と確認書類の種類が一覧で確認できます。

相続した株式の売却と確定申告が必要になるケース

「特定口座(源泉徴収あり)だから確定申告は不要」という声をよく聞きます。それは正しい。しかし、節税の特例を使いたい場合は話が別です。これは盲点になりやすいところです。

口座の種類と確定申告の要否を整理すると、次のようになります。

口座の種類 確定申告の要否
特定口座(源泉徴収あり) 原則として不要(証券会社が代行納税)
特定口座(源泉徴収なし) 必要(自分で申告)
一般口座 必要(自分で申告)

特定口座(源泉徴収あり)でも、以下の場合は確定申告が必要になります。

  • 取得費加算の特例」を使って節税したいとき
  • 他の口座の損失と損益通算したいとき
  • 損失を翌年以降に繰り越したいとき(繰越控除)

取得費加算の特例は最大で数百万円単位の節税効果が生まれることもある制度です。特例の適用が可能かどうかをまず確認するのが基本です。

確定申告の期間は、株式を売却した翌年の2月16日〜3月15日です。申告期限は必ず守りましょう。

また、国民健康保険に加入している方は注意が必要です。特定口座(源泉徴収あり)で確定申告をしなければ国保料の算定対象にはなりませんが、確定申告をすると売却益が「所得」として保険料計算に算入され、翌年の国民健康保険料が上がる可能性があります。取得費の特例で節税できる金額と、国保料増加分をシミュレーションして比較してから申告するかどうかを判断することをおすすめします。

荒川区「株式や配当などの確定申告による国民健康保険料への影響」:確定申告の選択が国保料に与える影響の具体的な事例が掲載されています。

相続した株式の売却で使える「取得費加算の特例」の節税効果

相続税を支払った方だけが使える強力な節税制度があります。それが「取得費加算の特例」です。これが使えると、税負担を数十万〜数百万円単位で圧縮できます。

この特例は、支払った相続税の一部を株式の取得費に上乗せできるという制度です。取得費が増えると譲渡所得が減り、その分だけ税金が安くなる仕組みです。

適用要件(3つすべてを満たすこと)

  1. 相続または遺贈によって株式を取得していること
  2. その財産の取得者に相続税が課税されていること
  3. 相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内に売却していること

「3年10ヶ月」という数字は、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)+3年を合算したものです。期限を1日でも過ぎると特例は使えません。厳しいところですね。

取得費に加算できる金額の計算式

$$\text{加算できる相続税額} = \text{支払った相続税額} \times \frac{\text{売却した株式の相続税評価額}}{\text{相続した全財産の評価額(債務控除後)}}$$

具体例で確認してみましょう。

  • 株式の売却価格:1,500万円
  • 被相続人の取得費:不明(売却価格の5%=75万円)
  • 譲渡費用(手数料など):15万円
  • 支払った相続税:600万円
  • 相続した全財産の評価額:3,000万円(うち当該株式:750万円)

加算できる相続税額:$$600\text{万円} \times \frac{750\text{万円}}{3,000\text{万円}} = 150\text{万円}$$

特例あり:$$1,500 – (75 + 150 + 15) = 1,260\text{万円(譲渡所得)}$$

特例なし:$$1,500 – (75 + 15) = 1,410\text{万円(譲渡所得)}$$

税額の差:$$(1,410 – 1,260) \times 20.315\% \approx 30.5\text{万円の節税}$$

この特例は必ず確定申告でのみ適用できます。適用を受けるには、確定申告書に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」と「譲渡所得の内訳書」を添付する必要があります。申告書の書き方が複雑なため、税理士への相談を検討する価値があります。

国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」:適用要件・計算式・必要書類が公式に確認できます。

相続した非上場株式の売却で「みなし配当課税」が発生するケース

上場株式と非上場株式では、税務上の扱いが大きく異なります。特に非上場株式を発行会社に買い取ってもらう(いわゆる金庫株化)ケースは要注意です。

通常、上場株式の売却益には一律20.315%の分離課税が適用されます。しかし非上場株式を発行会社に譲渡した場合、売却対価のうち「会社の蓄積利益に相当する部分」は「配当」と見なされ、総合課税(5%〜最大45%+住民税10%)の対象になります。これが「みなし配当課税」です。

所得が多い方の場合、最大税率55%が適用されるケースもあります。これは使えそうです。

みなし配当の計算式は次のとおりです。

$$\text{みなし配当額} = \text{受け取った金銭等の額} – \frac{\text{資本金等の額}}{\text{発行済株式数}} \times \text{売却株式数}$$

この「資本金等の額」は会計上の資本金と異なり、税務上の計算が必要です。専門家なしでの計算は難しいです。

特例を使えばみなし配当課税を回避できます

相続で取得した非上場株式を発行会社に譲渡する場合、一定の要件を満たすとみなし配当課税が適用されず、譲渡所得(20.315%)として課税される特例があります(租税特別措置法第9条の7)。

適用要件は取得費加算の特例と共通する部分が多く、相続から3年10ヶ月以内の売却が条件の一つです。さらに、売却日までに発行会社に「みなし配当課税の特例に関する届出書」を事前提出する必要があります。この届出書を忘れると特例は使えません。

課税方式 税率の目安
通常のみなし配当(総合課税) 5%〜55%(所得によって変動)
特例適用後(分離課税) 20.315%(一律)

非上場株式の売却を考えている場合は、この特例の届出を忘れずに行うことが条件です。

国税庁「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」:届出書の様式と提出のタイミングが確認できます。

相続した株式の売却で不動産業者が見落としがちな損益通算と繰越控除の活用法

相続した株式を売却する際、複数の銘柄や複数の口座がある場合に見落とされがちな制度が「損益通算」と「繰越控除」です。これを活用するかしないかで手取りが大きく変わります。

損益通算とは何か

同じ年に複数の株式を売却して、あるものは利益、別のものは損失が出た場合、利益と損失を合算(相殺)して課税対象を小さくできます。これが損益通算です。

たとえば、相続したA銘柄の売却で200万円の利益、同年にB銘柄の売却で80万円の損失が出た場合、課税対象の所得は200万円ではなく、$$200 – 80 = 120\text{万円}$$になります。

損益通算をする場合は、口座の種類に関わらず確定申告が必要です。特定口座(源泉徴収あり)の場合、申告不要のまま放置すると損益通算されません。

繰越控除とは何か

その年の損失が利益を上回り、損益通算しても相殺しきれなかった損失は、翌年以降最大3年間繰り越すことができます。これが繰越控除です。

たとえば、今年の損失が100万円で利益がゼロだった場合、確定申告で損失を申告しておくと、翌年・翌々年・3年後の利益と相殺できます。翌年に200万円の利益が出れば、$$200 – 100 = 100\text{万円}$$が課税対象になります。節税効果は約20万円です。

繰越控除を受けるためには、損失が生じた年に確定申告をすることが必須です。申告しなければ損失は翌年に繰り越せません。期限は通常の確定申告と同じく翌年の3月15日です。

また、上場株式の売却損は、同じ年に受け取った配当所得(上場企業からの配当)との損益通算も可能です。これは「株式等に係る譲渡所得等と上場株式等の配当所得等の損益通算」と呼ばれる制度で、特定口座内だけでなく確定申告を通じて複数口座間でも適用できます。

損益通算・繰越控除ともに、確定申告書の「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」に記載が必要です。株式を複数抱えている方は、税理士や確定申告サポートサービスを利用すると、計算ミスを防ぎながら手続きを進められます。

国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」:損益通算・繰越控除の仕組みと申告方法が確認できます。