追完請求条文の要件と不動産業の実務ポイント

追完請求条文の要件と実務

不動産売買で売主が修補拒否できる場面もある

この記事の3つのポイント
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民法562条が定める追完請求権の基本構造

引渡し後の契約不適合に対し、買主が修補・代替物引渡し・不足分引渡しを請求できる権利で、買主の選択が優先される

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売主が別方法で追完できる「不相当な負担」要件

買主請求に不相当な負担がなければ、売主は異なる追完方法を選択可能で、費用・期間・実現可能性が判断基準

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通知期間1年と宅建業者の2年責任

契約不適合を知ってから1年以内の通知が必須で、宅建業者売主は引渡しから2年以上の責任期間設定が法律上義務

追完請求権を定める民法562条の条文構成

 

民法562条は2020年4月施行の改正民法で新設された条文です。この条文は買主の追完請求権について規定しており、不動産取引における契約不適合責任の中核を担います。

条文は2項で構成されています。1項本文では「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる」と定めています。

つまり基本は買主主導です。

ただし1項ただし書きで、売主は買主に不相当な負担を課さない範囲で、買主が請求した方法とは異なる方法による追完ができるとされました。たとえば買主が「建物全体を建て替えてほしい」と求めても、修補で十分な場合は売主が修補を選択できるということですね。

2項では追完請求の例外を規定します。「前項の不適合が買主の帰責事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない」としています。買主自身が原因で生じた契約不適合については、売主に追完義務はないということです。

改正前民法には追完請求権の明文規定がありませんでした。不動産のような特定物売買では、伝統的に追完請求は認められないとされてきた経緯があります。

改正でこの点が大きく変わったのです。

条文の位置付けとしては、民法第3編「債権」第2章「契約」第3節「売買」の中に置かれています。562条から566条までが契約不適合責任に関する一連の規定で、追完請求(562条)、代金減額請求(563条)、損害賠償・解除(564条)、権利移転の担保責任(565条)、期間制限(566条)という構造になっていますね。

民法562条の詳細な条文解説と実務への適用については神戸合同法律事務所の解説記事

追完請求の3つの方法と不動産取引での選択

民法562条1項は追完の方法として「修補」「代替物の引渡し」「不足分の引渡し」の3種類を明記しています。それぞれ適用される場面と実務上の留意点が異なります。

修補とは目的物の欠陥部分を補修・修理することです。不動産取引では最も頻繁に用いられる追完方法といえます。たとえば引渡し後に雨漏りが発覚した場合、屋根の修理を求めることが修補請求です。給排水設備の不具合、建具の破損、外壁のひび割れなども修補の対象になります。

代替物の引渡しは、契約不適合のある目的物の代わりに、契約内容に適合する別の物を引き渡すことです。ただし不動産は「この土地」「この建物」という特定物として取引されるのが通常ですから、実務上は代替物請求が認められるケースは極めて限定的です。むしろ区分所有マンションで複数の同一仕様住戸がある場合など、例外的場面に限られるでしょう。

不足分の引渡しは、数量が契約内容に適合しない場合の追完方法です。たとえば実測売買で土地面積が契約時の表示より少なかった場合、不足分の土地引渡しを求めることになります。ただし実際には隣地との境界問題などで物理的に不可能なケースも多く、その場合は代金減額請求や損害賠償請求に移行します。

買主は原則としてこれら3つの方法から自由に選択できます。

これが追完請求権の重要な特徴です。

売主の意向ではなく買主の意向が尊重されるわけですね。

ただし実務では、選択した方法が実現可能かどうかも検討が必要です。たとえば構造的欠陥で修補が技術的に困難な場合、修補請求は事実上意味を持ちません。その場合は代金減額請求や契約解除を検討することになります。

不動産業従事者としては、買主から追完請求を受けた際、まず請求内容が3つのどの方法に該当するかを正確に分類することが第一歩です。そのうえで実現可能性と費用を検討し、後述する「不相当な負担」要件の適用可能性を判断します。

追完請求ができない場合の条件と買主帰責事由

民法562条2項は「前項の不適合が買主の帰責事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない」と定めています。買主側に原因がある契約不適合については追完請求が封じられるという規定です。

帰責事由とは法律上の責任を問われる原因のことを指します。買主帰責事由の典型例としては、買主が引渡し後に不適切な使用や改変を行ったことで不具合が生じた場合が挙げられます。たとえば買主が無断で構造壁を撤去して建物の耐震性能が低下した場合、これは買主帰責事由による契約不適合といえるでしょう。

また買主が契約時に既に不適合を認識していた場合も、帰責事由があると評価される可能性があります。たとえば内覧時に雨漏り跡を確認しながら「現状有姿」での購入に同意していたのに、引渡し後に雨漏りを理由に追完請求するケースです。

これは信義則上も認められにくいですね。

不動産実務では、物件状況報告書や付帯設備表で売主が開示した瑕疵について、買主が了承のうえで契約した場合の扱いが問題になります。この場合、形式的には契約不適合が存在しても、契約書に「買主はこの状態を了承して購入する」旨の特約があれば、そもそも契約不適合には該当しないと解されます。

ただし買主帰責事由の立証責任は売主側にあります。買主から追完請求を受けた売主が「これは買主の責任だ」と主張するなら、売主がその事実を証明しなければなりません。

実務では証拠の収集と保全が重要になります。

たとえば引渡し直後の物件状態を写真や動画で記録しておく、定期的な点検記録を残すなどの対応が有効です。特に買主が入居後にリフォーム工事を行った場合、工事前後の状態を明確に記録しておくことで、後日のトラブルを防げます。

売主が不動産業者の場合、引渡し時に物件チェックリストを用いて買主と一緒に現況確認を行い、双方が署名する運用も推奨されます。これにより引渡し時点での物件状態が明確になり、その後の変化について買主帰責事由の有無を判断しやすくなりますね。

追完請求の通知期間と民法566条の1年ルール

追完請求権を行使するには期間制限があります。民法566条は「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定めています。

つまり契約不適合を知ってから1年以内に通知しなければ権利が消滅するということです。ここで重要なのは「知った時から」という起算点です。引渡し時からではなく、買主が実際に契約不適合の事実を認識した時点からカウントが始まります。

たとえば2024年4月1日に物件の引渡しを受けたが、雨漏りに気付いたのが2025年3月1日だった場合、通知期限は2026年2月28日(2月末日)までとなります。引渡しから1年ではなく、発見から1年という点を押さえておく必要がありますね。

ただし数量や権利に関する契約不適合については、566条の適用が除外されています。つまり土地面積の不足や権利の一部が第三者に属していた場合などは、1年ルールに縛られず、民法の一般的な消滅時効(権利行使できることを知った時から5年、権利行使できる時から10年)が適用されます。

「通知」の方法については特に法定されていませんが、後日の紛争予防のため、内容証明郵便など記録に残る方法が推奨されます。通知内容は契約不適合の具体的内容(いつ、どこに、どのような不具合があるか)を明記すべきです。この段階で追完方法まで特定する必要はなく、不適合の事実を通知すれば足ります。

実務では買主が不具合に気付いてもすぐに売主に連絡しないケースがあります。「様子を見よう」「自分で直そう」と考えているうちに1年が経過してしまうリスクがあるのです。不動産業者としては、契約時や引渡し時に「万が一不具合が見つかったら速やかにご連絡ください。1年以内の通知が法律上必要です」と明確に説明しておくことが重要です。

また売主側の立場では、買主から「雨漏りしている」などの曖昧な連絡を受けた場合でも、それが566条の「通知」に該当する可能性があります。口頭連絡でも通知として成立しうるため、買主からの連絡内容と日時を記録に残す習慣をつけるべきでしょう。

全日本不動産協会による売主の担保責任期間制限の詳細解説

追完請求権と宅建業法40条の2年責任

宅建業者が売主となる不動産取引では、民法とは別に宅建業法40条の特別規定が適用されます。この条文は「宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない」と定めています。

簡単に言えば、宅建業者売主の場合は引渡しから最低2年間は契約不適合責任を負わなければならないということです。民法566条の「不適合を知ってから1年」ルールは買主にとって不利になる可能性があるため、宅建業法で「引渡しから2年以上」という明確な基準が設けられたわけですね。

これは買主保護の強行規定です。仮に契約書で「契約不適合責任の期間は引渡しから6ヶ月」などと定めても、その特約は無効となり、結果として民法566条の原則(不適合を知ってから1年)が適用されます。つまり買主にとってより有利な扱いになるということです。

実務では多くの宅建業者が「引渡しから2年間」という特約を採用しています。これにより買主は引渡し後2年以内に契約不適合を発見して通知すれば、追完請求などの権利を行使できます。起算点が明確なため紛争予防にも効果的ですね。

ただし宅建業法40条が適用されるのは「宅建業者が自ら売主」の場合に限られます。宅建業者が仲介(媒介)するだけで、売主が個人である場合は適用されません。

この点、取引態様の確認が重要になります。

また新築住宅については住宅品質確保法により、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について10年間の瑕疵担保責任(契約不適合責任)が義務付けられています。これは宅建業法40条よりもさらに長期の責任です。

宅建業者としては、2年責任を前提とした社内体制の整備が必要です。引渡し後2年間は買主からの連絡に迅速に対応できる体制、修補に対応できる協力業者の確保、記録管理システムの構築などが求められます。特に中古物件の買取再販事業では、買取時の物件調査と引渡し前のリフォーム品質管理が2年責任リスクを左右します。

実際のトラブル事例として、引渡し後1年11ヶ月目に買主が雨漏りを発見して通知したケースがあります。

この場合、通知は2年以内なので有効です。

そこから修補協議が始まり、最終的な修補工事完了は引渡しから2年6ヶ月後になったとしても、適法に処理されたことになりますね。


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